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貴方も私も人じゃない163


そして、戦が始まった。

鎮流は本陣にて指揮を執ることになっていた。慌ただしい陣の中で、鎮流はぴくりともせず立っていた。
「…鎮流様……流石と言うべきか、微塵も動揺されておらぬ…」
「女だてら、西軍の軍師は名乗っておらぬというわけか…」
本陣から見下ろせる戦場で、三成が縦横無尽に駆け抜けているのが分かる。その背後には吉継がついている。
西軍はもはや、三成と吉継の補佐も化していた。鎮流の役割は、補佐たる西軍を動かし、三成の切り開いた道を確固なものとして三成の背を守ること。
普通ならば、大将が道を開き兵卒がその補佐にしかならないというのは、あり得ない話だ。
「…イレギュラーすぎて他の軍では成立しない手法ね。でも、私には都合がいいわ」
手練れの軍師であれば逆に困惑するような状況。だが鎮流は手練れではない。むしろ軍師として意識し始めた時から三成の指示を請け負ってきて、三成のやり方にはなれている。
西軍が普通でなかったことは鎮流にとってはかなり都合がよかった。
「…三番の隊を中央の陣へ!陣を保守なさい!」
「はっ!」
「伝令兵!北東の陣へ通達を、南南西の守りが希薄です」
「は、はっ!」
鎮流の鋭い声に兵が動く。鎮流はゆったりと腕を組んだ。
「…ふぅ。今のところは取ったり取られたり…といったところね。さぁこれからどうなるかしら、と…」
「鎮流様!」
「はい」
「伝令より通達!東に動きあり!」
「真田と伊達がぶつかった?」
「は…?!あ、はっ!その通りでございます!」
陣に駆け込んできた伝令兵は、伝達内容が知れていたことに僅かに驚いたように声をあげたが、慌てたようにそう報告した。
予想の範疇の報告だった。むしろ、来るべくして来た報告だった。
幸村が東の守りにある以上、東軍の誰かの足止めをしているのは当たり前だ。そうでないならば、こちらに向かっているという報告があってしかるべきだろう。
「よし。伊達の足止めが出来ているなら多少はマシね…後は」
鎮流は動かない。ただ腕を組んで戦場を見下ろしているだけだ。端から見れば、か細い女性が意味もなく戦場を見ているだけにも見える。
だが、鎮流の発する覇気は、容易に声をかけることすら難しくさせていた。


戦況はしばらく大きく動くことはなかった。どうやら三成は家康と遭遇したらしく、戦場の中央近くで派手に争っている様子が見てとれた。残念ながらどちらが優勢かまでは見てとれない。
「………………」
鎮流は相変わらず動かない。指示を飛ばす以外は、ただひたすらに戦況を見つめていた。
その時、不意に近くで大きな爆撃音がした。どよ、と本陣に残っている兵からどよめきがあがる。
チッ、と鎮流は小さく舌打ちした。
「…やっぱりそうか」
「鎮流様ー!こっ、小早川様裏切り、」
「用意させていた信号弾は?」
「は?あ、こちらに…」
「赤色をあげてください」
「へ?こ、それより小早川様が」
裏切りを伝えたというのに今まで同様身動ぎ一つせずそう言う鎮流に、裏切りを伝えた伝令兵はきょとんとしたように鎮流を見た。
鎮流は、はぁ、とため息をついて首で振り返ってそちらを見やる。
「…ですから、弾を。指示はそれで事足ります」
「え…?あ、はっ!信号弾、赤色あげー!」
伝令兵は慌てて声をあげた。兵らは戸惑ったように鎮流をちらちら見たが、指示の通り信号弾を打ち上げた。
真っ赤な煙と共に弾が打ち上げられた。少しして、一番秀秋のいる所に近い場所にいた兵らが動いた。
「お、おぉ…?!」
「まさか…?!」
「これで事足りるでしょう。皆落ち着きなさい、予想の範疇です」
「は……はっ」
兵達は鎮流の言葉に慌てたようにざわざわしていたが、すぐに落ち着きを取り戻していった。
「…小早川はいい。問題は雑賀だ…いつ来る」
鎮流は小さく呟いた。
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