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貴方も私も人じゃない146

「あーもう面倒な…」
「!忍殿」
「はいーっ?!」
裏門へと向かう途中、苛立った様子の佐助とすれ違った。鎮流が声をかければ、やはり苛立ったように鎮流を振り返った。
鎮流は自分の右の腹部を指差す。
「動きを見るに、おそらくこの辺りに怪我を負っています。右回りに腰は回せないでしょう。首を取るなら右斜め後ろ、下からが狙い目です」
「…!どーもっ」
佐助は鎮流の言葉に驚いたように目を見開いたが、すぐににやっと笑って立ち去った。
三成も、鎮流の言葉に少しばかり意外そうに鎮流を見た。
「そんなところを見ていたのか」
「…真田殿に早々に死なれても困りますし、伊達には潰れてもらった方が楽ですから」
「ふん。行くぞ」
「はい」
ちら、と一度後ろを振り返った後、もう興味をなくしたか、そちらの喧騒を気にすることはなかった。


 そのまま二人は上田城を後にし、翌日の日暮れには大阪に帰り着いた。吉継は戻った三成を見て渋い顔をしていたが、自らが以前黙って出ていったこともあってか、責めに責められないようだった。ただ、鎮流には幸村は政宗に城を抜けられたものの、無事であると告げてきた。
「どちらも無事、ですか」
鎮流は上田の荷物を片しながら吉継の話を聞いていた。吉継は鎮流の部屋の一角に腰を下ろし、ヒヒッ、と小さく笑った。
「主がおったのならば滅多なことはなかったであろうな?」
「えぇ。多少煽ってみましたが、真田幸村は三成様とは相性が良さそうです。まだ若く、いわゆる当主らしさもない。領主になるには純真すぎますが、単に味方にすると考えるだけならば信用できるかと思われます」
「ほぅ?」
「ただ、少しばかり迷いを抱えている様子でした。徳川家康との直接対決には今は向いていないでしょう」
「…なるほどナ。まぁ真田はなかなか名高き武士よ、役には立つであろ」
「……そうですね」
鎮流はとん、と棚を閉め、膝で回って吉継の方へ向き直った。吉継は鎮流と話しながらなにか読んでいたらしい、鎮流が向き直ったことに気が付くと、手に持っていた和紙を鎮流の方へと渡した。
「これは?」
鎮流は受け取りながらそう尋ねた。和紙は達筆な手で書かれた書文のようだった。吉継はやれやれと言いたげに首を回した。
「中国の毛利元就、知っておるか?」
「…よくは存じ上げませんが……半兵衛様が警戒されていた方だと」
「我はそやつと裏で手を結んだ。これより表向きの手を結びに行くところよ、三成を連れてな。主には黙っておっても見抜かれる気がした故な」
「…下手に向こうで口にされ面倒になるくらいならば、先に教えておいた方がよい、と?」
「そういうことよ。三成にはナイショの話であるからな」
鎮流はざっと書文に目を通すと、ヒッヒと笑いながらそう言う吉継をじとり、と見据えた。
「…、暗躍なさるのは結構ですが、ほどほどになさった方がよろしいとご忠告申し上げておきます」
「…!随分大きな口を叩くものよな」
「私は豊臣、しいては三成様の為に力を尽くすつもりではおりますが、それ以外の人間の味方であるつもりはございませんので」
「…何?」
吉継は鎮流の言葉を半ば笑い飛ばすように言ったが、続いた鎮流の言葉に笑いを引っ込め、目を細めた。
鎮流はじ、とその目を見据える。
「…貴方の企みが西軍のみならず、三成様の心身にとって逆効果になると判断したときは、私は貴方でも敵と見なし潰すと申し上げているのです」
「…」
吉継は鎮流の言葉に不愉快そうに僅かに眉間を寄せた。顔をも覆う包帯のせいでそれが視認できることはなかったが、鎮流は吉継の雰囲気にそれを悟ったか、ふっ、と小さく笑んだ。
「ですから、ほどほどにと。三成様は裏切られた精神的苦痛を負っている状態、貴方の行動が裏切りと取られても不思議ではありませんし、そう受け取ったときの三成様の苦痛は、貴方ほどならば推し量れるものでしょう?」
「………ヒヒッ、言ってくれる。まぁ腹のすみにでも置いておいてやろ」
吉継は鎮流の言葉に肩をすくめると、輿を浮かせ、部屋から出ていった。
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