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貴方も私も人じゃない172


ーーー
「………なんだっ、て?」
呆然としたような家康の言葉に、政宗は肩を竦める。幸村も何も言わず、視線を斜め下に落としている。
あの後、そのまま家康の元へ赴いた二人は鎮流から聞いた話を伝えていた。元親が死んだ、そう聞いた家康は、しばらく目を見開いたまま固まっていた。
政宗はそんな家康の反応を待っていたが、あまりに固まったまま動かないので、大仰にため息をついた。
「家康?聞いてんのか」
「え、あ、う、あ、あぁ……」
「だから、長曾我部はもう探す必要はねぇな」
「…!独眼竜……ッ」
「俺に対して怒んなよ」
「………そうだな、すまない…」
「………しかし、皆殺しとは、恐ろしいお方でござる」
幸村の呟くような言葉に、家康はきゅ、と唇を噛む。政宗はぐるぐると首を回した。家康のもやもやした態度に、早々興味が尽きてきたようだ。
「…で?あいつの処遇、どうするんだ?野郎が長曾我部を殺したのは半分私怨なんだぜ?」
「…………分かっている」
「どう分かってるんだ?今のままのお前じゃ、結局あの女を飼い殺して終わりそうだけどな」
「ま、政宗殿」
「アンタもそう思うだろ真田、今のこいつに、あの女を処刑なんて出来ねぇってよ」
「………………」
挑発するような政宗の言葉をいさめた幸村であったが、返された言葉を否定しきれず口をつぐむ。家康は、はぁ、と小さくため息をついた。

政宗の言葉が自身を案じての言葉であることは分かる。
天下人となった今、西軍に属していた側の人間に、それも軍師であった人間にそう甘い采配をくだすことは出来ない。それは東軍はおろか、日ノ本の民の信頼を失いかねない行為であるからだ。
よくて島流し、最悪は死刑だ。それくらいしなければ世間は納得しない。
そして今、鎮流は東軍に勝つためのみならず、家康への私怨により長曾我部の軍勢を皆殺しにするという、大罪を犯していることが明らかになってしまった。

もはや、死の宣告をくだすことは、避けられない。

家康は政宗に向けて、笑い顔を作ってみせた。
「散々な言いようだなぁ…。……そこまで馬鹿じゃあないさ」
「へぇ?ならいいんだけどよ。まぁだが、見事なもんだよな」
「……?何がだ」
「あの女が、だよ。四国にいた奴等だって全員行方不明を疑っていなかった。西軍の奴等の話を聞いてもそうだ。やることはド派手だが、周りへの対処も完璧すぎる」
「…………そうだな」
「あの女、昔からそうなのか?」
「…、彼女はそうだな。そうだった。相手を欺くために味方をも欺く。その手腕は鮮やかすぎて、欺かれたと分かっても怒りが沸かなかったくらいだ」
家康はかつての戦を思いだし、目を細める。
そう、あの時は三成ともども見事に騙されたものだった。そこまで昔ではないはずなのに、あまりの懐かしさに涙が出そうなほどだった。
幸村は家康の言葉にほう、と感心したように声をあげる。
「…なんと。まだお若き方だというのに……」
「……だが…ここまで情け容赦なくはなかったよ。そうしてしまったのは、多分ワシなんだろうな」
「………そうかもなァ」
「…」
政宗は否定しない。
家康は、ふっ、と柔らかく笑い、立ち上がった。
「…ちょっと行ってくるよ」
家康はそう言って、鎮流のいる座敷牢へ足を向けた。
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