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貴方も私も人じゃない147

「…貴方は仕事が雑なんですよ、大谷様。そもそも、そうした暗躍は本人が動くものではございませんわ」
鎮流は誰もいなくなった部屋で、ポツリそう呟いた。


 二日後、吉継の言う通り三成は軍を率いて中国地方へと出発した。もちろん鎮流も軍師としてついていくことになった。
「鎮流、万一戦闘になったときは貴様に指揮を任せるぞ」
「承知しております。兵の事は気にせず、交渉にお臨みください」
「言われるまでもない」
三成は鎮流にそう指示して、吉継と共に毛利元就の元へと向かった。兵らと共に残された鎮流は、隊列を組んで待機する彼らの先頭で元就が会談場所に指定した厳島神社へと視線をやった。
「…大層ひどく改造されたものね、厳島神社。あの鏡…毛利は日輪信奉者、下手をしたらあれ武器ね」
「!鏡が武器、でございますか…?」
先頭の部隊長が鎮流の言葉に意外そうにそう尋ねた。鎮流は軽く肩を竦めた。
「日光は凝縮すれば簡単に物を焦がす程度の熱量になる。見たところあの鏡は内側に向けて軽く湾曲しています。おそらくあの鏡は日光を集めて熱線を発するための装置でしょうね」
「なんと…」
「…だけど、あの神社の構造から見てそう重いものは何個も乗せられない。大型兵器はあれだけでしょう。あの鏡を割ってしまえば、戦力を削ぐのは簡単そうです」
「!」
「それでも毛利元就は智将と名高いとか。…戦闘になるのならば、お手並みが楽しみですわ」
ふふっ、と小さく笑ってたのしそうにそう言った鎮流に部隊長は僅かに目を見開き、そして薄くそれを細めた。
「……自分は何度か鎮流様の策に従って参りましたが…戻られて、変わりましたな、鎮流様」
「…変わらぬ人間などいませんよ、部隊長。ご安心を、自分で言うのもなんですが、思考は普通に働いておりますよ」
「…ご無理は、なさらないでくださいませ。あなた様も、三成様も…」
「………、ありがとうございます」
鎮流は小さく礼を言って、僅かに落としていた視線を再びあげて、厳島神社を見据えた。
 結局戦闘になることはなく、盟約は無事締結された。帰り支度をしている豊臣軍を見送りにでも来たか、隊列のそばに元就の姿があった。
元就は鎮流に気が付くと、じ、と鎮流を見つめてきた。鎮流もその視線に気がつき、軽く会釈を返した。
「…大谷から聞いておる。貴様が鎮流とやらか」
「いかにも、私が鎮流にございます。あなたは、毛利元就様ですね」
「…質の悪い冗談かと思ったが、真に女子が軍師をしているとはな」
「半兵衛様の後釜のようなもので、まだ未熟者ではございますが」
「…貴様、人を殺めた事はあるか」
「ええ、ありますわ。一応、武器も持っておりますので」
鎮流は品定めするように質問を投げてくる元就に嫌な顔を浮かべることなく、懐の銃を抜いて見せた。
元就はただでさえ細い目をさらに細めた。
「…軍師としての経験はあるのか。見たところ若いようだが」
「まもなく18になります。ですが、何度か戦で策を立てさせていただいたこともございますわ。貴方様が如何程の実力をお持ちなのか私は存じ上げませんのでお比べすることはできませんが」
「…成る程。そんじょそこらの女子とは確かに違うようだ」
「誉め言葉として受け取らせていただきますわ。日ノ本を二つに分かつこの戦、お味方いただけるとのこと、感謝いたします。よろしく申し上げます、毛利様」
「…我は安芸の安寧さえ守れればそれでよい。天下など欲しいものにくれてやる」
元就は最後にそう言うと踵を返し、神社の中へと戻っていった。鎮流は礼をしてそれを見送り、完全に後ろ姿が見えなくなった所で、唇に指を添えた。

「信用できないなぁ…」

鎮流は誰にも聞こえないような小さな声で、そう呟いたのだった。
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