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貴方も私も人じゃない164

しばらく戦場を観察していると、東の方で何やら動きがあった。
鎮流は組んでいた腕を解き、つかつかと陣の端へ歩み寄った。不意に動いた鎮流に、本陣にいた兵らはぎょっとしたように鎮流を見た。
鎮流は門の隣にある塀の隙間から、ぐ、と身を乗り出した。その動きは、西軍と東軍どちらも混乱させているようだった。
ー来た
見えてはいないが、鎮流はそう確信する。
「し、鎮流様?」
「第三勢力です!」
「えぇっ!?」
「潰しますよ!本陣の第六部隊を敵勢力へ!」
「は、はっ!!」
味方かもしれない。そう一切考えずに即座に判断を下した鎮流を兵卒らは僅かに戸惑ったように見たが、戦場においてそうした戸惑いは命取りである。
兵らはすぐに表情を引き締めると、鎮流の指示に従い動き始めた。

「…動きが早い……」
「?どうしたんだい、孫市」
「何、西軍側の対処が早すぎると思っただけだ」
「…確かに早いねぇ。そこまで派手にドンパチしたつもりはなかったんだけど」
「………奴だ……」
「?」
「気を付けろ。奴は容赦なく我らを潰しに来るぞ」


 孫市がどのようなものと手を組んだかは分からない。だが、どちらにも属していない派閥と考えれば予想は容易い。
「……チッ。戦力としては並み以上、そして銃というスタイルからして、しぶといわね。わざわざ銃撃部隊を回してあげたんだけれど」
鎮流は早々容易には倒れない第三勢力に僅かに苛立ちながらもそう呟いた。
いや、正確に言えば第三勢力に苛立っていたわけではない。その苛立ちは、若干の諦めから来ていたからだ。

西軍の面子が、東軍に押し返され始めている。ぽつりぽつりと裏切りも発生しているようだ。予想の範疇の裏切りもあったが、そうではない微々たる裏切りが、だが徐々にその規模を大きくさせているのだ。

戦というものは、その準備段階で雌雄が決すると言っても過言ではないと、何かで読んだ気がした。
全くもってその通りだ。戦力が拮抗するものであればあるほど、事前の準備、情報がものをいう。
そういう意味では、西軍の結束というものは緩いものだった。その時点で不利だった。三成に心から味方になった豊臣以外の人間など、鎮流から見てみれば義弘や宗重、幸村くらいなものだ。東軍は固いのかと問われれば、そんなことは知ったところではないが。
そんなことは端から分かっていた。相手はこちらの大将のかつての主を倒した人間、勝ち目などあるはずもなかった。
「…………八の部隊を半分西四の陣へ、半分を東一の陣へ」
だがそんなことはどうでもいいのだ。
勝ち目がない戦、負ければそれだけだったというだけだ。
自分は最善を尽くした。三成も全力を傾けた。
それでも勝てぬというのならば、それはどうしようもないのだ。
「鎮流様、裏切りが……」
「…………」
疲弊した兵の声が鎮流の背中にぶつかる。
鎮流は戦場の中心を見た。そこで戦っているはずの三成と家康の勢いは、最初に比べれば弱くなっていた。
どちらが有利かなど分からない。見えない。
だが、不意に鎮流は、ばちりと何かと目があったように感じた。

そこから感じたのは、絶望と充足感。

鎮流は、ふ、と笑った。
「………この戦、これまで」
「…は………?」
「全軍撤退!青信号を上げよ!」
「なっ…!鎮流様!まだ三成様が、」
ぎょっとしたように声をあげる兵を、振り返って手で制す。
「これ以上続けたところで無駄に犠牲が増えるだけです。撤退します」
「しかし、三成様は!!」
「私が迎えにいきます。否、もう戻らぬかもしれません」
「………!鎮流様!」
鎮流は焦ったような兵の声に、ふ、とその兵がいつぞやからかよく行動を共にしていた部隊長であることに気が付いた。
鎮流は、にこりと笑った。
「これも時代の流れ。……部隊長。撤退してください。その指揮は貴方に任せます」
「…鎮流様…!何故、貴女様が、死なねばならぬのですか…!」
「私や三成様の為に多くの兵が死んでいった。ならば私も、同じように皆のためにこの命を使うまで。……行ってくださいますね」
「………!……承、知……いたし……申した…………!」
部隊長は、ぎり、と悔しげに歯軋りをしたあと、絞り出すようにそう言い、鎮流に一礼すると後はもう振り返らず走っていった。
鎮流はまた戦場に目をやり、ふぅ、と息をついた。
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