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貴方も私も人じゃない167

鎮流は家康に連れられ、そのまま徳川方に捕らわれる形となった。家康のせいなのだろうが、西軍の軍師であったというのに鎮流は座敷牢に通された。
すぐに処罰が下されるでもなく、しばらく鎮流は座敷牢で日々を過ごすことになった。
「…恐らくこうも反応がないのは真田への対応……部隊長に撤退を指示した後、伝令を向かわせはしたけれど、無事かしら」
誰もいない座敷で、一人鎮流はそう呟く。
逃げないと信用されているのか、手枷の類いすらつけられていない。鎮流は部屋の片隅に座り、何をするでもなく、ただその日を待った。


 家康と共に家康の居城に来てから数日後、家康が鎮流の元を訪れた。家康は牢越しに鎮流と向き合うように座った。
「…やぁ」
「……何の、ご用でございましょうか」
「君には聞きたいことが色々ある、って言っただろう?話を聞きに来た」
「…私が話す気になることなら、お答えしましょう」
「…ふふ。手厳しいな、あなたは。まず聞きたいことがある。元親のことだ」
家康は、ふ、と一度小さく笑ったあと、不意に表情を消して鎮流を見据えた。一番に尋ねられた問いに、鎮流は小さく肩を竦めた。
「…存じ上げません。私も探していたのですから」
「…本当に?」
「さぁ?例えどれだけ私が事実だと訴えたところで、信じるか信じないかは貴方次第でしょう?」
「…………貴方に軍のことを聞いたところで、本当かどうかは分からない…口を割りはしない、ということか。じゃあ別の話をしよう」
家康は鎮流の返答に一瞬眉間を寄せたが、すぐに諦めたか表情を緩め、薄く笑った。固くしていた体も柔らかくしたようだ。鎮流は黙ってそんな家康を見据えた。
「…元気だったか?鎮流殿」
「………………」
「あなたは、ワシのことを憎んでるだろう…でもワシは、」
「別に貴方様自身はなんとも思っておりません」
「、え?」
「この期に及んでまだ私を好いているなどとほざく貴方は、憎んでいると言って差し支えありません」
「………」
家康は驚いたように鎮流を見たが、ぎろり、と睨むように自分を見据え、はっきりそう言った鎮流に小さく笑った。
その笑いが鎮流の癇に障る。鎮流はふいと視線を逸らした。直視していては自分が苛立つだけだ。
「…そう怖い顔をしないでくれ。あなたの言うことはもっともだけれど」
「…………………」
「なぁ。あなたは…きみは、三成のことはどう思っていたんだ?」
「…どうもこうもありません、あの方は私と同じだったというだけ。同じだからこそ共に全力で力を尽くした、それだけです」
「……それは、」
「相変わらず貴方は言わねば分からぬのですか?懇切丁寧に申し上げて差し上げましょうか」
「…言わずとも分かるさ、そこまで馬鹿ではないよ」
家康は刺のある鎮流の言葉にそう返し、困ったようにがしがしと頭をかいた。

家康にだって分かっているはずだ。今さら何を言おうと、二人の間に生まれた亀裂を埋めることなどできないと。
そうできるはずのものを、家康は捨ててしまったのだから。その時点で、埋められるものは消え去ってしまったのだ。

ーそれでも前のような会話を望むのか。なんて厚かましい、なんて強欲な人

鎮流は胸のうちでそう呟いた。気を付けなければ、その激情が顔に出てしまう気がした。
悟られたくなかった。知られたくなかった。
もはや家康には、御子柴鎮流という女の、何もかもを分かってもらいたくなかった。
無知でいればよいのだ。そして苦しめばよいのだ。
そう願った。願わずには耐えられなかった。

「…聞きたいのはそれだけですか」
「………………」

帰れ。
帰ってくれ。
何も語ることなどないのだ。語りたいこともないのだ。
それは、離れていた間に消え去った。同じく裏切られた身である三成と共に過ごすうちに彼の憎しみが伝播したのか。
今はただ。
徳川家康という存在を認識したくなかった。
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