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貴方も私も人じゃない157

それから三日ほど経って、鎮流は官兵衛を伴って大阪に帰ってきた。一足先に戻っていた吉継は、一緒に来た官兵衛を僅かに意外そうに見ていた。
「よう戻った、鎮流」
「大谷様も、ご無事で何よりでございます」
「尼子への対処も見事なものよ。問題はなかったか?」
「ええ。あぁ、でも大谷様」
「?」
鎮流はいたずらっぽく笑って、吉継の耳元に口を寄せた。
「以前も後始末は丁寧に、と申し上げましたが、やるならやるで、油断してはなりませんよ?まぁ、こぼれた分は掃除しておきました」
「…………」
吉継は鎮流の言葉に僅かに眉間を寄せた。鎮流はそれだけ言うと頭を下げ、足取り軽くその場を去った。
吉継はそれを見送った後、ちら、と官兵衛を振り返った。官兵衛はむっつりと黙り込んでいる。吉継が見ているのに気が付くと、嫌そうに肩を竦めた。
「…そういえば、主、何故戻ってきた?」
「……刑部。半兵衛が生きてた頃はあいつはあそこまでじゃなかった」
「?」
「あいつをああさせたのは、本当に徳川への憎しみだけか?お前さんは、何もしてないんだろうな?」
「…何を言うておる。我がしたこといえば、態々火に入りに来たアレを受け入れてやったまでのこと、アレに手管を加えたりなどはしておらぬしそのような時間もないわ」
「……だろうな。小生が来たのは、お前さん以上に、あの嬢ちゃんが恐ろしいからだ。冗談じゃあないぞ」
「……………それほどに、か?」
いつになく真っ直ぐに吉継を見据え、そう言う官兵衛に、吉継も笑い飛ばすこともできずに目を細め、官兵衛を見返した。
官兵衛は視線を僅かに落とした。
「……お前さんよりえげつない奴だよ、あの嬢ちゃんは」
「………こちらに戻ってからあれの姿を見ておらぬが」
「…察しがよくて何よりだよ、チクショウ」
官兵衛は吉継の言葉にそう毒づくと、じゃらじゃら鎖の音をさせながら吉継の隣を通りすぎていった。
吉継はしばらくその場で固まった後、ひっ、と小さく笑った。
「…ナルホドナ。まっこと、味方におれば恐ろしきくらいに頼もしきよな」
吉継はふらふらと、その場を離れた。


 「…!鎮流」
一方の鎮流は、部屋に戻る途中で孫市に話し掛けられていた。孫市は僅かにキョロキョロとしていて、鎮流はにっこり笑ってそれに答えた。
「これはこれは雑賀殿。如何なさいました」
「もと…長曾我部元親を見なかったか」
「いいえ?お見掛けしておりませんが」
鎮流は孫市の問いかけに、心底不思議そうにそう返した。孫市は困ったように腕を組む。
「…あいつは黒田に会いに行くと言っていたんだ。だが黒田に会った様子はなかった」
「ええ、私は尼子との戦の後に黒田様をお訪ねした訳ですが、その道中で長曾我部殿にはお会いいたしませんでしたよ」
「…………」
「しかし、おかしいですね。城に残した兵の話では、長曾我部殿は装備を整えるために一度四国へ戻ると仰られ、城を出られたと聞き及んでおりますが?」
「…!」
孫市ははっとしたように視線をさ迷わせたが、鎮流はあえてそれには触れなかった。如何にも不思議そうに首をかしげる。
「そもそも何故長曾我部殿が黒田様にお会いする御用があったのでしょうか?あのお二方に接点はないものと…何か聞いておいでですか?」
「………いいや?」
「困りましたね。四国へ使いを出してみましょう、御情報ありがとうございました、雑賀殿」
「………いや…………」
鎮流はいやに丁寧にそう言って頭を下げ、その場を立ち去った。孫市は、僅かに鎮流から感じる不気味さに、ぶるりと体を震わせた。
「…元親…どこに行った……ッ」


その後、四国へ行った使いの兵の話では、四国に元親の姿はおろか、長曾我部軍の兵の一人の姿もなかった。

その日を最後に、長曾我部軍は一切の姿を消した。
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