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貴方も私も人じゃない161

数日後、鎮流の姿は関ヶ原にあった。
どたばたと慌ただしい本陣で、あれこれ指示を飛ばしている。
「その装備は北の陣へ。あぁ…それは大谷様に聞いてください。それから…」
「あ……あのう…」
そんな鎮流へ、おどおどと話しかける影があった。そちらを振り返れば、特徴的な装備の、鎮流よりも背の低い男がいた。
「これはこれは小早川様。いかがなさいました?」
鎮流に話し掛けたのは小早川秀秋だ。鎮流の問いかけに、秀秋は自分から話し掛けておきながら、ひぃっ、と後ろへ後ずさった。
鎮流はにこ、と笑う。
「そう怯えないでくださいませ、悲しゅうございます」
「え、あ、ごめん……」
「それで、私に何用でございましょうか?」
「…そのう…指示を君に聞けって…三成君が」
「あぁ、そういうことでございましたか。小早川様は、」
「ね、ねぇっ!1つ、聞いてもいいかな…?」
「?はい」
秀秋の言葉に早速指示を伝えようとした鎮流を、秀秋は遮るようにそう尋ねた。鎮流は僅かに不思議に思いながらも、秀秋を見つめた。
秀秋はしばらくもじもじとしていたが、意を決したように鎮流を見上げた。
「その…鎮流さんは、なんで三成軍の味方になったの?」
「…と、仰有いますと」
「そのぅ…こんな言い方はよくないかもしれないんだけど、鎮流さんは家康さんに気に入られてたんでしょ?三成君と家康さんだったら…」
家康の元の方が、家康の人柄もよく安全だったのではないか。
秀秋が言いたいことはそういうことだろうと判断した鎮流は、困ったような笑みを浮かべた。
「……それは私の望むところではなかったということです」
「でも…」
「私は、小早川様。これでも、徳川様を大層憎んでいるのでございますよ?」
「え?ど、どうして?」
「…あのお方は、私自身を見てはくださいませんでしたから」
「………そうなの?」
秀秋はきょとんとしたように鎮流を見た。鎮流はどういう喩えが分かりやすいだろうか、と頭を捻った。
「そうですね…たとえば、小早川様が好いている女子の方がいたとしましょう。その方に、怯えている貴方様の姿が好きだと言われたら、嬉しいですか?」
「……うーん…好きになってもらえるのは嬉しいけど、好きな子にそう言われるのは、それはぁ…」
「徳川様は、そういうお方だったのです。…もし、あの方が私自身を見てくださるお方だったのなら、あの方の所に残っていた、かもしれません」
「……」
秀秋はぼんやりと鎮流を見上げていた。その顔は、なんとなく分かっていない様子が伺えた。
ー完全に分かられるのも嫌だけれど
鎮流は、にこっ、と笑った。
「疑問は解消されましたか?」
「…う、うん……」
「他にご質問は?」
「…鎮流さんは、三成君が怖くはないの?」
秀秋は鎮流の言葉にはっと我に返り、そしておどおどしたようにそう尋ねた。
鎮流は秀秋の言葉に困ったように首をかしげる。
「……三成様は、小早川様にはすぐ手をあげられますからね…小早川様には許していただけると甘えていらっしゃるのでしょう」
「え……えっ?!」
「三成様に変わってお詫びいたします、申し訳ありません」
「うっ、ううん!気にしてないよ!!」
「…ありがとうございます。そうですね……私は怖くはないですよ。あのお方も私同様徳川様に裏切られた方…同類と言うと失礼な言い方ですが」
「…そう、なんだ」
「では、指示をお伝えしますね」
「う、うん」

 指示を聞き終えた秀秋は、またね、と手を振って自分の持ち場へと向かっていった。
ふぅ、と鎮流は息をついた。
「…単純なお方なようだから、少し持ち上げておけば大丈夫かしら?まぁ、でも裏切るのを前提に対応した方がいいでしょうね」
小早川秀秋。史実では西軍を裏切り、そしてそれが関ヶ原の戦の勝敗に大きく影響する。
「…ここは史実とは滅茶苦茶。でも、念には念をいれてもいいでしょうね」
鎮流は小さくそう呟くと、別の場所へ指示を伝えるべく足を向けた。
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