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貴方も私も人じゃない166

「……ふぅ」
鎮流はそう息を吐き出すと、何事もなかったかのように立ち上がり、振り返った。
家康や慶次は勿論、孫市すらも鎮流を不気味そうに見ていた。鎮流は至って冷静に、普段と変わらない表情を浮かべているように見えた。
「…お久し振りですね徳川殿」
「っ、え、」
「もう既にお気付きでしょうが、西軍は撤退させました。敗北を認めます」
「…!鎮流殿ッ、」
「大谷様も来がけに死亡を確認しました。役職にあったものは最早私のみ。投降致します」
鎮流はそう言ってその場で膝をついた。膝をつくのに合わせて、ふわり、とスカートが揺れる。それはゆったりと形を整えて鎮流の体に合わせて落ちた。
家康は呆然と鎮流をみおろしている。
「…ま、ってく、れ…。なんで、そんなに」
「なにか」
「なんでそんなに冷静なんだ、撤退させたって、どうして、」
「私は三成様より西軍の全指揮権を頂いておりました。これ以上の戦闘は無意味、そう判断したまでのこと」
「いや、そうじゃなくて…!」
家康は鎮流が自然に自分に話しかけてきたことで動揺しているのか、混乱したようにどもっていた。
鎮流は笑いもしないまま、澄まし顔で家康を見上げた。
「では、なんでしょうか」
「三成が…んだ、ってのに…」
「それがなんだというのですか?死亡は確認しました。そもそも殺したのは貴方でしょうに」
「ッ!!」
さぁっ、と家康の顔が青ざめる。その頃になって、ぽかんとしていた慶次が我に返った。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!役職って、君がかい?!」
「…そう申し上げておりますが。信じがたいと仰るのならば、貴方の後ろにいる、元々西軍にいたお方にお尋ねになってください」
「…………」
慶次はつっけんどんにそう返され、困ったように視線を鎮流と孫市へとさ迷わせていた。
家康は少し黙った後、鎮流に視線を合わせるように腰を落とした。
「………久しいな、鎮流殿。君は、変わらないな」
「………それは貴方の希望的観測かと」
「…そういうところが変わってないって言ったんだ」
「そうですか。…そうかもしれませんね、本性はそうそう変わりません」
「…どうして、一人で投降したんだ」
「そうですね。意地、みたいなものですかね。私は別に戦争が好きなわけでも、人が死ぬのが好きなわけでもありませんから、無用な死はいらぬと判断したまでです」
「……結果君が死ぬことになったとしても、か」
「滑稽なことを仰いますね。死ぬことを恐れていては軍師など務まりません。死は既に覚悟したものです」

数ヶ月ぶりに再会したにしては、穏やかな会話が流れる。だがその中でもはっきり感じ取れる、鎮流の拒絶。
家康は僅かな間目を伏せ、開く頃には当初の動揺は消え去っていた。
家康は立ち上がり、鎮流に手を差し伸べた。
「……あなたには聞きたいことが色々ある。……ついてきてもらう」
「……ご自由に」
鎮流はその手を取らずに立ち上がり、懐の拳銃を家康に手渡したのだった。




ここで、日ノ本を二つに分かつ戦は終わりを迎えた。

鎮流と家康の対決は鎮流の負けに終わった。
その割に、鎮流の顔に落胆や後悔は見られなかった。
「……あれが、敗軍の将の顔かねぇ」
少なくとも、慶次に言わせるくらいには、鎮流の顔に敗けの色はなかった。
負けていないと思っているのか。
はたまた、現実を受け入れ何をも恐れていないのか。
そんなものは、鎮流以外の人間には判断しかねる話であったのだ。
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