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貴方も私も人じゃない160

「…やれ困った…」
「ええ。でもまだ見た目は誤魔化せますし、平気だと思っていたのですが」
「…堕ろす気はありやるのか?」
「やり方が分かりませんでしたし、すぐに動けるかの保証もございません。最悪最後の戦までは産まれないだろうとの予想のもと、放置しておりました」
「………やれ、危ないことをしやる。腹をぶつけ、流しでもしたら」
「それが私の命運のつき、ということなのでしょう。一応気はつけて過ごしておりましたよ」
吉継が、はぁー、と長くため息をついた。億劫そうに首をあげる。
「………いかがしやるつもりよ。産まれたら、いかがしやる」
「……愛せる自信は、ないですね。徳川の血が残るのも厄介でしょう」
「…女子は己が子にはどんな因縁の後も情がわくというが?」
「さぁ?そればっかりは当事者にならねばわかりません、が……」
「が?」
「今は、邪魔だという感覚しかありまん」
「…………左様か。そうであるならば、主も楽であろうがな?」
鎮流は自らの腹に触れ、ぽつり、とそう呟いた。吉継はそんな鎮流に目を細め、ヒッヒと笑いながらそう口にした。
鎮流も、吉継の言葉に困ったように笑った。
「…本当に、そうならばいいのですが」



 それからの日々は、早かった。元親を兵に探させ、幸村との連絡を密にとり、東軍と元就の動きを見定め、関ヶ原の配置を吉継とあれこらと話し合いーー己の事を気にしている余裕は無かった。

体調が優れないのは無視をした。
吐いても体を動かすのを止めることはしなかった。
徐々にキツくなるように感じられてきた服にも気が付かないフリをした。
だから服を緩めて着ることもしなかった。
食事をまともに取らなくなり、少し痩せすらした。

それでも鎮流は歩みを止めることはしなかった。
意地があった。過去を思い出すたび、胸が張り裂けるような気がした。思い出したくなかった。それでも体が不調を訴えるたび、フラッシュバックした。
自分に向けられた、屈託のない笑顔。好きだと、伝えられた時の温度。
忘れたくても、忘れられない。体が思い出す。
戻りたいと思った。だがもう戻れない。戻れる場所は、彼自身にもう壊されてしまった。
壊され、憎いはずだった。それでもどこかでまだ好いていた。
嫌いになりきれない、憎みきれない己さえもが憎く感じられ始めた。

だから歩き続けた。
その先に答えがあるわけでもないことなど分かっていた。
それでも歩き続けるしかなかった。
それしか選べなかった。

「三成様」

自分と同じ運命を辿っている男を止めようとは思わなかった。彼の道の先には恐らく後悔があることは分かっていた。
だが今歩みを止めさせて、それで何になる?何も解決などしない。
別の道の先には、別の後悔が存在するだけだ。
後悔のない道など存在しない。後悔のない人生など存在しない。
そうであるならば、今、望む道を進む方がよっぽどマシではないか。

「鎮流。首尾はどうだ」
「滞りなく。徳川は先鋒が関ヶ原に布陣した様子、大将も城を出たようです」
「…ようやくだ……ようやくこの時が来た……!」

目的を達成することで、確かに彼は救われる。
その事で後悔を抱くのならば、またそれを救う道を探せばいい。

「えぇ。もうじき、終わります」

他人の生き様など好きなように口出しができる。
所詮は他人、心の思いなど分かるはずもない。
自分を救えるのは最終的には自分だけだ。
だからこそ口出しはしない。口出しはさせない。
生きる、ただそれだけのために。

「行くぞ」
「はい」

鎮流は、進むのだ。
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