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貴方も私も人じゃない156

「…誰に、だァ?俺は家康があんなことするとは信じられなかった、だから調べることにした、そんで家康に会った!あいつはやってねぇと言った!」
鎮流は官兵衛の側から離れ、数歩斜め前に出た。
戸惑ったように頭を振り、行く宛もないように腕を振る。
「徳川殿は平気で嘘をつくお方、それだけでは信用はできません」
「サヤカだ。アイツが調べてくれた。四国の強襲、裏を操ってやがったのは毛利と大谷!!実行したのはそこの黒田だ!!」
「……雑賀の………」
すっ、と鎮流の目に影が射す。だが興奮している元親は、そんなところまでは気が付かなかった。元親の目には、鎮流は混乱しているようにしか見えていなかった。
「アンタには生憎な話かもしれねぇ。だけどそれが事実だ。…邪魔しねぇでくれ」
「…やれやれ」
元親は突き立てていた武器を引き抜き、肩にかけ、官兵衛へ向けて歩きだした。官兵衛も諦めたようにそう呟き、じゃらり、と鎖を鳴らした。元親の発言を否定したり、それに激怒したりする様子は見られなかった。
鎮流は動かない。

元親が鎮流の隣を通りすぎようとする。
踏み出した足が、小砂利とすれて、ざり、と音を立てる。

鎮流は
銃を抜いた。

その動作は元親を止めるには至らなかった。
踏み出したのと反対の片足が宙に浮く。

そして


「使えないのならばいりません」



「え、」
ぴんと張りつめた緊張の中で、凜とその言葉は響いた。元親の反応が、言葉の真意を汲み取れずに遅れたものになる。
流れるように鎮流は半身を捻り、左手で抜きさった銃の口を元親の頭へと向けた。鎮流は元親から見て左手、死角にいた。元親の眼帯が鎮流の目にはいる。
「残念です」
鎮流はそう言うと同時に引き金を引いた。

「ぐ、ぁああっ!?!」
ばぁん、という爆発音と、少し遅れた元親の悲鳴が、また響く。がらがらと元親の武器が支えを失い、派手な音をたてて地面に落ちる。次いで、どしゃ、と元親が倒れた。
鎮流は静かにもう片方の銃を抜き、官兵衛は呆然としたように二人を見ていた。
「あ…ぅ、が、」
「すみませんね。即死させるつもりだったんですが…存外人間って死ににくいんですね。色々見てると死にやすい印象があったんですが」
鎮流はそんな風にぺらぺらと喋りながら、動けない元親の頭を髪を掴んで持ち上げ、その額に銃口を押し当てた。最初の一弾は、額を抉ったに過ぎなかったようだ。
多少は脳も傷付いたか、焦点の合っていない目で鎮流を見上げた。
「…ん、で………ッ」
「私は知らないとは一言も言っておりませんよ」
「………なっ……」
「大丈夫。安心してください。今度は誰も残しませんから。貴方のような思いを抱える方は、産みませんよ」
「………ッ!!」
「恨んでくださって結構です。貴方にはその資格があり、そして私は恨まれて当然です。それでは、おやすみなさい」
「ま゛…ッ!」
元親はとっさに手を伸ばした。その手は鎮流を大きく外れたところへ伸びた。
鎮流は引き金を、引いた。


びくんっ、と体が小さく跳ね、宛もなく伸ばされた手は支えをなくしどさりと地に落ちた。
傷口から出た血がじわじわと広がり、土に染み入る。
「……お、まえ…さん……」
官兵衛は数歩後退り、自分の鎖に躓いて腰を落とした。鎮流は元親の血で汚れないように、さっさと立ち上がると数歩下がった。
「黒田様、少しここの坑道、血生臭くなりますがその点はご容赦くださいね」
「…まて、お前さん、何するつもりだ!」
「長曾我部殿に宣言した通り、誰も残しません。あぁ、どうぞ邪魔はなさらないでください。万が一、発覚したときは私がやったと証言なさってくださいませ。黒田様はなにもしていません」
「…!」
「何故そこまでする、と、言いたげですね。簡単な話です」
鎮流は官兵衛を振り返り、にっ、と笑った。
「私は私を地獄に落とした徳川家康という男を、地獄に落としたいだけです。腹の、彼の子供もろとも」
官兵衛の乱れた前髪の間から、普段は見えない目が覗く。その目は限界まで見開かれ、若干の恐怖も見てとれた。
鎮流はにこりと笑う。
「実行したのは全て私です。努々お忘れなきよう、黒田様。そして、どうぞご内密に。徳川を散らすためとはいえ、そう多くの命を散らしたいわけではございませんので」
鎮流はそう言うと、踵を返した。
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