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貴方も私も人じゃない162

「…………?」
指示のため陣内を移動していた鎮流はあることに気が付いた。
「…、失礼」
「は、はい!」
「今大谷様がどこにいるか、分かりますか」
「大谷様ならば、確か北側の陣へ」
「ありがとう」
鎮流は近くを通りかかった兵に吉継の居所をきき、礼を言ってそちらへと向かった。
吉継は言われた通りの方向にいた。吉継も吉継で、指示に追われているようだ。
「大谷様!」
「!鎮流か、いかがしやった」
吉継は鎮流の呼び掛けに意外そうに鎮流を振り返った。鎮流は辺りを見渡し、自分達の会話に耳を傾けている者がいないのを確認してから、吉継に近寄った。
「お耳に入れておきたい事が」
「?何よ」
「雑賀衆の姿がありません」
ぴく、と吉継の指が跳ねた。吉継は面倒だと言いたげに眉間を寄せ、鎮流を見返した。
「…まことか」
「気が付くのが遅れましたが、間違いなく。恐らくこちらへ移動してくる途中でトンズラしたのでしょう」
「…理由は思い当たるか」
「真っ先に浮かぶのは長曾我部です、が」
「違うと?」
「違う気がします。長曾我部は私の方も色々手を回しておりましたから。それとは別の…」
「徳川か」
吉継の形相が険しいものになる。だが、鎮流は静かに首を振った。
「それはないでしょう」
「何故よ?」
「それはあの方がちっぽけな矜持を持っているからです。三成様を選んでおいて徳川に寝返った、それで徳川が勝ったら勝ち側に逃げただけ、三成様が勝ったら見極める目もないただの間抜け、そういう評価になります」
「…では何よ?」
吉継は納得したように何度か頷き、そしてそう尋ねた。うーん、と鎮流は小さく唸り、眼を細めた。
頭をフル回転させ、考える。
「……考えられるのは、第三勢力。徳川でも三成様でもない…新たな思想」
「…………」
「…それがあるとしたら……それはどちらにも属さない…どちらも破壊するもの…ではないでしょう。ならば、どちらも止めるためのもの」
「…………フム」
「…なんであれ、三成様の邪魔となる事はほぼ確実かと思われます」
「さよか」
吉継は、ふー、と長く息を吐き出した。そして、疲れたように頬杖をつく。
回りの兵らは忙しさにそんな二人には気が付かない。
「全く、面倒なことになったものよ」
「そうですか」
「そうは思わぬか?」
「…まぁ、そうかもしれません。ですが、これで雑賀を潰す口実ができました」
「…潰す?」
鎮流の口から出た言葉に、吉継は驚いたように鎮流を見た。鎮流は、ぴっ、と人差し指をたて、口元に当てた。
「長曾我部の事に一番最初に気がつくのは彼女。彼女が気が付く前に消せれば、気が付く人はいなくなります」
「……………、全く主は、結局東軍に寝返った海神の巫や雑賀よりも、はるかに恐ろしき女子よなぁ」
吉継は笑いながらそう言った鎮流にぱちくりと何度か瞬いた後、疲れたように脱力し、そう言った。
ふふ、と鎮流は小さく笑う。
「私は後始末はきっちりせねば安心できないのですよ」
「全く裏方には多いに向いておるわ。それは主の本性か?」
「…本性、でしょうね。政治家…私の父がそうした世界にありましたから。尻尾を出したら食い殺される、そういう世界に」
吉継は鎮流の言葉に目を細め、のっそり体を起こした。
「…主が男であったならば、最も驚異となっていたであろうな」
「さぁ、それはどうでしょう?ここまで私に色濃く出たのは、女だからと期待されなかったからだと思いますよ」
「ヒヒッ、ならばそうした主の親御に感謝せねばならぬな?」
「!……ははっ、そうかもしれませんね。では私はこれにて。戦場で雑賀を見かけたときは…」
「殺して構わぬ。アレの道を阻むものはいらぬ」
「…承知いたしました」
予想通りの吉継の言葉に鎮流はにこ、と笑い、踵を返した。
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