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貴方も私も人じゃない150

「………彼女は、軍師になるために…そのためだけに、ワシの元を去ったと言いたいのか?」
「お嬢様を欲されるのであれば、その程度はお分かりになってください。お嬢様は愚鈍な方はお嫌いですから」
「………………」
「お嬢様は割り切りの早い方です。…、もう手遅れかもしれませぬな」
「ッ、あなたは…」
家康は苛立ったように立ち上がった。源三は膝の前で拳をつくと、それを支点に体の向きを変え、家康に向き直った。
「私はお嬢様のお味方です、何時如何なる時も…それが私の身を危うくしようとも」
「…………………ワシへの言葉は、全て彼女の為だと?諦めろと、そう言いたいのか」
「はっきり言わねば分からぬと言うのならば敢えて申し上げましょう。その通りでございます」
「…っ」
「貴方様がお嬢様を手に入れることは、ほぼ無理に等しいでしょうな。お諦めなさいませ。その方が互いのために、」
「ワシは諦めないよ。ワシは無い物ねだりする方なんだ」
家康は源三の言葉を遮るようにそう言い、にっ、と笑った。源三は僅かに目を見開き、そうですか、と呟くように言うと、また体の向きを戻した。
「……また会いに来る」
家康はそう言うと、牢屋から出ていった。



 その日から、一週間近くが立った。鎮流はその頃には九州に移動していた。島津の方も東へ動き出していたようで、両者は今の大分の辺り、大友家が統治している豊後で顔を合わせた。
その為なのか、はたまた島津義弘と大友宗麟が交流があるからなのか、会合は宗麟の居城で執り行われることになった。
「……な、なんたる面妖な城…」
「……大友宗麟といえばキリシタン大名……何らかの宗教でしょうね」
「…おそらく、ザビー教なるものかと」
「…そう」
鎮流は護衛として会合の席にも来ていた部隊長の言葉にさして興味は示さず、相手を待った。
ほどなくして義弘は宗麟、そして宗麟の部下立花宗茂と共に姿を見せた。義弘は驚いたように鎮流を見た。
「ほーっ。凶王三成の軍師というからどげんか男ば来るかと思うちょったら、別嬪なお嬢が来たわ!」
「お初にお目にかかります島津義弘殿。西軍軍師、鎮流にございます」
「なんて美しい女性なのでしょう…!おまえ、ザビー教に入りなさい、僕が許可します」
「いぃっ?!そ、宗麟様!!」
「…ザビー教、ですか。それは何をうたっている宗教なのでございますか?」
義弘との会談のはずなのに口を挟んできた宗麟に、鎮流はにこり、と笑ってそう尋ねた。宗茂は拍子抜けしたように鎮流を見たあと、はらはらと宗麟と鎮流とを見やった。
「ザビー教が掲げるもの?それは勿論、ザビー様の愛!」
「あぁ、ではお断りいたします」
「むむっ?!何を言い出すのですか!」
鎮流は笑ったまま宗麟を見上げる。宗麟はびくり、と僅かに肩を跳ねさせた。
鎮流の目は全く笑っていなかった。そのアンバランスさが、宗麟の背を震わせたのだ。
「私は愛に裏切られましたゆえ、今はどなたの愛も信用できないのでございます。ご容赦くださいな」
「!」
「……………」
義弘は鎮流の言葉に僅かに目を見開き、宗麟は鎮流の顔を見たまま固まっていた。宗茂には何故宗麟が動きを止めたのかは分からなかったが、これ幸いと言わんばかりに宗麟を引っ込めた。
「あ、主が失礼をいたしました…!」
「いえ、気にしていませんよ」
「………鎮流どん。その裏切られたっちゅう愛ば、徳川どんか」
「…まぁ、言いにくいことをお尋ねになるのでございますね」
「…徳川どんくらいしか考えられん」
「あまり人に話す気はございませんでしたが…まぁ、そうですよ。此度の話には関係のないこと、またいずれ」
「鎮流どんも凶王どんも、徳川どん憎さに戦ばしちょるんか」
「まさか。私も三成様も、そこまで子供ではございませんよ。…三成様には、酷な話でございますが」
鎮流はそう言って、視線を落とした。
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