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貴方も私も人じゃない148

その後、大阪に戻った鎮流は、後に徳川とぶつかる戦に備えるための背後固めを任されることになった。目下の相手は島津だ。
だが、島津との交渉が始まる前にある人物が鎮流の元を訪れた。
長曽我部元親だ。
 鎮流は客人だと言われ向かった部屋にいた彼を、僅かに驚いたように見た。まだこの時、鎮流は長曽我部の顔を知らなかった。
だから部屋に入った時、鎮流には上裸の野盗のような男がいるようにしか見えていなかった。
「…失礼ですが、どちら様でしょうか?お名前を伺っていないので…」
「あん?女…?あんたが、西軍の軍師、なのかい?」
「質問にお答えいただけますか」
「おぉっと、こりゃあ失礼した。俺は四国の長曽我部元親だ、あんたも噂にゃ聞いてるんじゃねぇか」
「!!長曽我部殿でございましたか。これは失礼をいたしました」
このような人が当主なのか、と鎮流は内心驚きながらもそう侘び、元親の前に座った。ぴん、と背筋を伸ばし正座する鎮流に触発されたか、元親も心なしか背筋を伸ばした。

元就との盟約が結ばれた後、吉継は元親に「何」をしたのか、鎮流に話していた。その仕打ちは、留守中に国が壊滅させられるという、元親にとっては大層ひどいものであった。また、先に盟約を結んだ元就と元親は瀬戸内海を挟んで長らく敵対してきたらしく、二人が相入れることはないが、そこには一種の信頼のようなものも生まれていたようだ。
吉継は彼が行った「何」と、その二人の関係性から元就と手を結ぶことで、元親を西軍に引き込もうとしたのだ。

鎮流はどこか憔悴した様子の元親に鎮流は僅かに哀れみを感じたが、それを顔に出すことはしなかった。
「お初にお目にかかります長曽我部元親殿。西軍の軍師をさせていただいております、鎮流と申します。本日はどのようなご用件でございましょうか?」
「分かりきったことよ。……同盟を打診しに来た」
「…お噂は耳にしております。心中お察しします」
「……なら、話は早そうだな」
ぎり、と元親は悔しげに眉間を寄せ、歯を鳴らした。
鎮流は僅かに目を細めた。
「…(大谷様の悪巧みは、ある意味今は成功しているようね)」
「…俺ァな。家康の野郎とは、ダチだったんだ…アイツは夢を持ってた。だが変わっちまった!四国を…アイツが……!」
「…その通りです、あの方は変わってしまわれました。豊臣にも…彼が友と呼ぶ方がいました」
「…豊臣にもか?」
「石田三成様です」
「!」
鎮流の言葉に元親ははっ、と顔をあげ、驚いたように鎮流を見た。そしてすぐに、その顔を怒りの感情で歪めた。
「アイツは…!俺だけじゃなく、西軍の大将さんまで裏切ってんのか…!」
「……同盟のお話、なにかと人手不足のこちらにとってはありがたいお話、断る理由はございません。ただ、三成様は自身も友と認めておられた徳川家康に裏切られ、主を殺されてしまったことで大層疑心暗鬼になっておいでです。正気を保っていられるのも、私には不思議なくらいなのです」
「……そうなのか…石田三成、噂は聞いてる。凶王なんて呼ばれるくらいだ、ただ怒りに燃えてるのかと思ってたが…」
「怒り、憎しみ…そうした感情が、今の三成様を支配しているのは事実です。ただ、その感情を湧かせる源泉には、裏切られた絶望と、悲しみがあるのも、また事実です。豊臣のやり方は横暴だと、そう言われる方は多いので、三成様がそのような淵におられることに、気がつかれる方は早々いませんが…」
鎮流はそう言って、悲しげに悩ましげに顔を歪めて見せた。元親の顔に、同情が浮かぶのが見える。
「………私も多少、嫌な目には合いましてね。三成様ほどではありませんが、やはり他の軍の方を信用するというのは、なかなか難しいものがございます。されど、貴方様なら、三成様と同じ痛みを抱えておられる貴方様なら、信用できるような気がいたします」
「!」
「同盟のお話、確かに承りました。こちらからも、重ねてどうぞよろしくお願い致します」
「合点だ!よろしく頼むぜ」
元親は鎮流の信用できる、という言葉に僅かに嬉しそうに顔をほころばせ、にかっ、と笑ってそう言ったのだった。
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