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見えないはずの右目が41

二人は黙々と作業を続けた。雪之条は小十郎に渡したもの以外にも作っているらしく、せっせと裁縫を続けている。小十郎もバランスよく布きれを入れていく。人形の小十郎も寝ているくせに難しい顔をしている。
「これはいつ見た…?」
「あー、神無月辺りの稽古中に」
「………なんで起こさなかったてめえ…」
「拍ャ十郎様こええっす!;;」
小十郎ははぁ、と長いため息をつく。その時突然外が騒がしくなった。次いでバタバタと階段を駈け降りてくる音がする。振り返った雪之条の目が見開かれた
「おい、ゆ…」
ばんっ、と地下牢の格子を掴んだのは。


「こじゅうろぉぉっ!」


痛々しい包帯を右目にくるくると巻いている。残った左目からぽろぽろと涙が零れていた。
「ぼっ…「小十郎っ!なんでそんな所に…っ!」
格子の隙間から必死に手を伸ばす梵天丸の手を慌てて掴んでやる。梵天丸は安心したように小十郎の手を握り締めた。
「ぼぼぼ、梵天丸様!?起き上がって平気なんすか!」
雪之条が慌てて話し掛けるが梵天丸は小十郎から離れようとしない。
「梵天丸様!」
家臣の何人かが慌ててやってきた。梵天丸はそんな彼らをきっ、と睨みあげた。
「なんで小十郎が牢の中にいる?」
「当たり前でござろう!?貴方の目を突き潰したのでござろう?!」
「違う!梵天が頼んだんだ!」
激昂する梵天丸に、家臣達はたじたじとしている。梵天丸は尚もぎゅうぅ、と小十郎の手を握り締め胸元で抱え込む。そしてその胸元には小十郎人形もあった。
「小十郎を出せ!」
「御館様がいらっしゃらぬときに勝手には…!」
「だったら梵天も帰らない!」
「梵天丸様、無理をお言いになられるな」
小十郎は慌てて梵天丸を嗜める。梵天丸は驚いたように小十郎を見上げた。
「小十郎は大丈夫でござるが、梵天丸様の今の体調を考えれば、ここはあまりにも環境がわるうござすぎます。梵天丸様が倒れられてしまったら…っ」
「小十郎…」
「……嫌だ」

「小十郎は梵天の守役だっ!ずっと傍にいろ!離れるもんか!」

ぎゅうぎゅうと小十郎の手を締め付けるか如くに握り締める梵天丸に、仕方なく小十郎は説得するのを諦めた。
「……と、申されておりますが…」
「…」
「……致し方有るまい。雪之条!貴様この二人と共におれ」
「はっ、はいっ!?」
雪之条はとばっちりを食らう形になりはしたが、小十郎は地下牢を出る事を許された。


「こじゅーろー♪」
三人で過ごすために少し広い間に通された途端、梵天丸は嬉々として小十郎に飛び付いた。想像と違ったのか、雪之条は驚いた顔をしている。小十郎は軽く苦笑しながらも梵天丸を抱き締め返してやる。
「右目は、大丈夫なのでございますか…?」
「うん!ありがとう小十郎!」
貧血でやや表情を青くしながらも梵天丸は笑顔を浮かべている。
その笑顔に、自然に小十郎の顔にも笑みが浮かんだ。
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