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見えないはずの右目が28

ポターン…
ポターン…

水が滴る音がする。

梵天丸は真っ暗な空間に立っていた。
そこはさながら無重力空間だった。梵天丸の結ばれていない髪は空間にたなびき、立っていたといえども足の下には感覚がない。

ここは、どこ。

立ちすくむ梵天丸の耳に聞きたくて聞きたくない声が響き渡る。

『近寄るな!』

目の前に突然母の姿が映る。
梵天丸の息が止まる。
「ははう、え」

『この化物!我の可愛い梵天丸を返せ…っ!』
「母上!梵天はここに…!」
ばちっ、と目が合う。

『失せよ!』

憎々しげに吐き出された台詞。梵天丸はのばしかけた手を止める。
母は着物を翻し、闇の中へと消えて行く。梵天丸は梵天丸は母の着物を掴もうと駆け出すが、感覚がない為にうまく前に進めない。
どんどん姿が消えてしまう。

「は…は……う………え……」
息を切らしながらも呼び掛ける。
ひたすら手を伸ばす。足を動かす。
「み…すて……ない…で…………お……い…てかな………い…で…………」
涙まで出てきた。ぐいと拳で拭いながらも足は止めない。
だが、遂に膝から崩れ落ちる。
もう、母の姿はなかった。
「…っ、ははうえぇぇ…」
涙が止まらない。まわりはまた真っ暗になる。
ところが、そこに一筋の光が射し込んだ。

…梵天丸様

おまえは、

光に向かって手を伸ばした瞬間に、目が覚めた。目の前には、貰えなかった優しさをくれる男が。
「……か、たくら?」
気が付くと手は小十郎の着物を強く握っていた。梵天丸は小十郎を見上げた。小十郎は優しく梵天丸の頭を撫でた。久しぶりに感じる人肌の暖かさ。
「ご安心くださいませ。小十郎は絶対に見捨てたりなど致しませんよ」
そして、とても優しく微笑んでくれた。

ああ、そうか。

小十郎は、俺の闇を照らしてくれる、光なんだ。
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