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見えないはずの右目が33

小十郎人形を抱き締めたまま、梵天丸は静かに一歩一歩踏み出していく。夜半を過ぎているので、ありがたいことに人間と遭遇することはなかった。ほんのり小十郎の匂いの残る羽織を強く握りしめ、記憶を頼りにある部屋へ向かう。


「…誰だ?」
男は障子越しに感じた人の気配に顔を上げた。
「……ぼ、梵天丸にございます」
そして、聞こえた梵天丸の声に手にしていた筆を取り落とした。従者の者が慌てて障子を開ける。
そこには震えながらも強い光を目に宿した梵天丸が立っていた。
「梵天丸!一人でよくぞここまで…」
「…父上…」
梵天丸が尋ねたのは父親の所だった。梵天丸の父、輝宗は驚いた様子だったが、すぐに優しい笑みを浮かべた。
「かような夜中にどうした?」
「片倉小十郎の事で申し開きがございます」
梵天丸の口からすらすら飛び出した言葉に輝宗も従者の者も目を見開いていた。
輝宗はまず従者を下がらせると梵天丸を座らせ、自分も梵天丸の前に座った。
「突然何を申す?」
「昼間の事、聞いてないのでございますか?」
「堅苦しくしないでいい。…義姫の事か」
輝宗は顔を曇らせる。梵天丸は耐え切れずにばんっ!と両手を畳につけると勢いよく頭を下げた。その様子に輝宗はたじろぐ。
「片倉はっ小十郎はただっ梵天を守ろうとしてくれただけで、母…上をどうにかしようなどとは思ってなどいません!悪いのは…梵天だから、だから、小十郎を殺さないで…っ!」
途中から涙が溢れ、言葉が紡げなくなる。輝宗はしばらく呆然としていたが、す、と梵天丸の頭を撫でた。
「ち、父上…」
「…奴には、お前も心を開けているようだな。まさかその為にあの離れを出てくるとは思わなんだ。…義姫にはわしから言っておこう、お前の心意気に免じ、小十郎は不問に伏そう」
「!ほ、本当に…っ?」
「男に二言はないに決まっておろう?」
そう言って、輝宗は梵天丸を抱き締めた。

「…すまないな。お前に、何もしてやれずに…」

梵天丸は驚く。
父親は、ずっと梵天丸の事を愛していてくれたのだ。

その事に気付かない程、梵天丸は逃げていたのだ。

「…っいいえ…っ!」
梵天丸が返事を返した時。

勢いよく障子が開かれた。
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