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見えないはずの右目が31

「かっ、かた…っ!」
「お怪我はありませぬか!?」
がたがたと震える梵天丸に小十郎は慌てて振り返り膝をつくと、優しく梵天丸を抱き締めた。
優しく背中を撫でてくれる大きな手に、震えが段々おさまっていくが、涙が止まらない。梵天丸はぎゅううっ、と小十郎の着物を握った。
「ご、ごめんなさいっごめんな…!」
「梵天丸様は悪くありませぬ。大丈夫でございますか?」
優しい言葉をかけてくれる小十郎に、さらに涙が止まらなくなる。
「何があったのでございますか?」
「…………っ!」
梵天丸は答えられない。だがそんな梵天丸の背中を、小十郎は泣き止むまでずっと撫でてくれた。


「…大丈夫でございますか?」
「……ごめんなさい」
泣き止んだ後も梵天丸は謝罪を止められなかった。小十郎が腫れた目に濡らした手拭いを当ててくれる。
「何があったのでございますか?」
「…母上が…」
「はい」
続きを促されたが、梵天丸はその時の恐怖が蘇ってしまい、再び目に涙を浮かべてしまった。
「狽ああ、言いたくないのなら構いません」
慌てたようにそう言われたので、つい梵天丸は甘え、黙ったまま頷いた。小十郎は再び手拭いを目に当て、乱れている着物を直してやる。
「……片倉…お前は、こ、殺されるのか…?」
「………分かりませぬ」
違う、と言いきらなかった小十郎に梵天丸の顔がさっと青ざめる。

俺のせいで殺される…!

「殺されるかもしれませぬし、暇を出されるかもしれません」
やんわりと言われた言葉に、後者であればいいと強く願った。
「…片倉…」
「申し訳ございませぬ、後先考えず」
小十郎が唇を固く噛み、頭を下げた。そんな小十郎に梵天丸は耐えきれず抱きつく。
「…今度は、俺が…」
梵天丸が小さく耳元で呟いた。小さいからみなまでは聞こえなかっただろう。

今度は、俺が小十郎を守ってみせる。今まで助けてくれた分以上に。

「…ありがとうございます」
小十郎はかすかに微笑むと、そう言ってくれた。
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