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見えないはずの右目が25

梵天丸は突然目の前の障子が開いたので驚いて上を見上げた。
そこにはやや呆れたような小十郎の顔が。ばれていたらしい。
「………」
「………」
「…お前、口調悪いんだな」
梵天丸は微妙に怒りを感じさせる小十郎から離れようと後退りながらおずおずと口にする。そんな梵天丸を見て、小十郎は苦笑を浮かべた。
「そんなに気になりましたか?あの者が。それとも私が信用出来ぬと?」
「……両方だ」
また見事に当てられてしまい、梵天丸は軽く唇を噛む。
小十郎は再び苦笑を浮かべている。
そこで、ふと気になっていた事を聞くことにした。
「…あれはお前の家来なのか?」
「そう、なります。申し訳ありません」
「…え?」
小十郎は悪いことをした訳でもないのに謝罪してきた。意味が分からず目がくるくると回ってしまう。
「ご機嫌を損ねられたのではないかと思いまして。遠慮のない者で、申し訳ありません」
「…ああ…」

小十郎様子供苦手っすよね?

先程の言葉が頭を掠め、不意に顔面が歪んだのが分かった。
そんな梵天丸の様子に慌てた様子を見せるのでさらに梵天丸は自己嫌悪に陥る。がっ、と勢いよく小十郎の着物を掴む。

行かないで欲しい気持ちと、行ってもらいたい気持ちとが交差する。

誰かの苦しみの上の幸せなんて、何が良いんだ。


それじゃ、俺から逃げた、母上と、同じ。


「…お前を慕う人間は沢山いる。なのになぜ、お前は俺の所にいる」
「何をおっしゃいます」
自分の声が、震えてしまわないように。
涙が出ないように。

梵天丸は下をむいたまま続けた。
「お前がここにいるのは仕事だからだろう?…、さっさと奴のと「違う!」

パシッ

小十郎の叫びが聞こえた、と思ったと同時に顔が大きく揺れる。そして、後を追うようにかぁっ、と熱い痛みが頬を襲った。

叩かれた

その事実に、久方ぶりのその行為に梵天丸は驚いて小十郎を見上げた。
小十郎は手を上げたまま、はっ、とした表情で固まっていた。
「…申し訳ありません」
小十郎は手を降ろすと、ばっと頭を下げた。

違う、小十郎は悪くない
「かた…」


そうは思っても、上手く口に出せない。
「無礼を働きました、申し訳ありません。…ご迷惑なようならば、御館様にご申告願います。小十郎が一存では止められませんし、小十郎に辞める気もありませぬ故」

「…え……」

辞める気が、ない

散々酷いことをしているのに、どうして。
謝らなきゃ、


だが、小十郎を前にして言葉が出ない。
「…何かあったらお呼びください。小十郎はここにおります」

また

先のように、ずっと本当にいる気だ。
「…」

どうして?

どうしてなんだ!?

そんなに優しくされたら信じてしまいそうになる。
今まで信じては裏切られてきた俺が、また信じようとしている。

簡単にしてはダメなんだ。そうなのに、小十郎はその思いをどんどんつき崩してくる。

胸に込み上げた思いに涙が出そうになり、梵天丸は小十郎に背をむけ、自室まで走り戻った。
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