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見えないはずの右目が26

梵天丸は自室に辿り着くと勢い良く襖を閉めた。
途端に涙が溢れだし、力なく崩れ落ちる。嗚咽を必死に押さえ、拳で涙を拭う。

嫌われるのが怖かった

あの異様なまでに優しい小十郎にさえ嫌われるようなら、きっと俺を愛する人なんていない。
嫌われないように、振る舞うべきなのに
小十郎の事を、傷つけてばかり。
こんな俺を、小十郎は許してくれるだろうか?

そう思っても、思う度に別の声が邪魔をする。

化物

心に深く突き刺さる声は、母親のもの。
いやいや、とでもいうかのように頭を左右に振る。それでもその声は耳元で囁いてくる。

お前みたいな化物を愛する人間なんていないんだよ

「嘘だッ…!だったら小十郎はなんなんだよッ…!!」



あれはただ媚びへつらうのが得意じゃないからお前に付け込んでいるだけさ。


「違うっ!片倉は…っ小十郎はそんな下衆じゃない!」

信用してないくせに、よくもまぁいけしゃあしゃあと


最後に嘲笑を残してその声は消えた。でも、最後の言葉が何度も繰り返し聞こえた。

夕餉の時、小十郎の顔を盗み見ると小十郎はとても悔しそうな顔をしていた。それと同時に、罪悪感を感じさせた。

梵天丸は決めた。


…今回の事は自業自得。


梵天丸は運を天に任せる事にした。


翌朝、小十郎がまだいたら、小十郎を信じる
いなかったら、すっぱり諦める

梵天丸は後者になりませんように、と願いながら眠りに就いた。




翌朝は普段より早く目が覚めた。だが梵天丸は着物が乱れるのにも構わず小十郎の元へ向かった。


少しあいた障子から見えたものは。



「……片倉」

梵天丸の声に気が付いたのか、驚いた表情で小十郎が振り返った。その顔は、手は、見るからに乾燥し、ひび割れかけていた。
小十郎をこんなにさせた自分への怒りと、本当にいてくれた小十郎への喜びとが交ざって顔が真っ赤になったが、梵天丸は声を振り絞った。

「…ご、ごめんなさい」

「…、は、はい?何故梵天丸様が謝られる…?」
「………」
その優しい声からは戸惑いしか感じない、怒りを全く感じない。梵天丸は涙がまた出そうになって俯く。

小十郎は許してくれた。

だから、俺も心を、こいつに。

「…………」
恥ずかしくて小さな声しか出ない。聞こえなかったらしい小十郎は身を縮めてきた。
「なんで…」
なんでしょうか
多分小十郎はそう言うつもりだったんだろう。

梵天丸が突然小十郎に抱きついたがために小十郎は一瞬声を無くした。

「ぼっ、梵天丸様…!?」
もの凄く慌てている小十郎の耳元へ口を近付ける。
そうすれば小さな声でも聞こえる。
「そばにいて」
「嫌いに、ならないで」

梵天丸の言葉に小十郎は息を呑んだように思えた。
だが小十郎は体を離すとまた、笑顔を梵天丸に向けた。

太陽のような、笑顔を。

「…小十郎は梵天丸様が好きでございますよ。傍にいて欲しいと望まれるなら、小十郎めはずっと傍におります」

梵天丸は、また小十郎にしがみついた。涙溢れる顔を隠すために。
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