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見えないはずの右目が22

「失礼いたします」
丁寧に声を掛けてくる小十郎。顔の赤みが引かなかった梵天丸は、黙ったまま背を向けてしゃがんだ。


少しして。
「梵天丸様は何がお好きでございますか?」
不意に小十郎が何の脈拍もなく尋ねてきた。
「…すき?」
「食べ物や、動物など」
好きな、もの。








そんなもの、ない。

梵天丸の頭に響いた悲しい言葉。
愛したのに憎まれた、そんな経験が人を愛する事を恐怖としてとらえていたのだろう。

ただ、それでも。


「………俺は鳥になりたい」

ぼそりと出た言葉。

こんな所から逃げ出して。
何もない場所へ飛んで。

そんな思いが浮かんだ。

「…鳥になれたらどこに行きたいのでございますか?」

女々しい事を仰られるな。

そう言われるのではないかと思っていた梵天丸は少し驚いたが、口は勝手に思いを言葉にしていく。

「……ここじゃない、雪が降らないという地を見てみたい」

梵天丸は小十郎を振り返り、少し自嘲気味な笑みを浮かべて言った。
「雪で閉ざされたこの国を出ていきたい。雪で閉ざされていない、もっと苦しくない地に行きたい…」
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