2010-1-2 13:28
「失礼いたします」
丁寧に声を掛けてくる小十郎。顔の赤みが引かなかった梵天丸は、黙ったまま背を向けてしゃがんだ。
少しして。
「梵天丸様は何がお好きでございますか?」
不意に小十郎が何の脈拍もなく尋ねてきた。
「…すき?」
「食べ物や、動物など」
好きな、もの。
そんなもの、ない。
梵天丸の頭に響いた悲しい言葉。
愛したのに憎まれた、そんな経験が人を愛する事を恐怖としてとらえていたのだろう。
ただ、それでも。
「………俺は鳥になりたい」
ぼそりと出た言葉。
こんな所から逃げ出して。
何もない場所へ飛んで。
そんな思いが浮かんだ。
「…鳥になれたらどこに行きたいのでございますか?」
女々しい事を仰られるな。
そう言われるのではないかと思っていた梵天丸は少し驚いたが、口は勝手に思いを言葉にしていく。
「……ここじゃない、雪が降らないという地を見てみたい」
梵天丸は小十郎を振り返り、少し自嘲気味な笑みを浮かべて言った。
「雪で閉ざされたこの国を出ていきたい。雪で閉ざされていない、もっと苦しくない地に行きたい…」