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見えないはずの右目が24

しばらく二人で空を見上げていたら。
小十郎が不意に表情を固くした、と梵天丸が思ったと同時に小十郎が立ち上がった。
「?片倉?」
「…しばしお待ちを」
それだけ言って去ろうとするものだから梵天丸は慌てて小十郎の襖を掴んだ。小十郎の上体が大きく揺れた。
「ぼ、梵天丸様?」
困惑した瞳が自分を見ているのが分かった。
梵天丸は軽く小十郎を睨む。もちろん、袴から手を離さずに、だ。
「…どこに行くの」
声が思ったよりも震えたのでまた顔を赤くするところだった。
小十郎はああ、と小さく呟くと、優しく笑いながらしゃがみ込み、梵天丸の視線に合わせてくれた。
「置き去りになどいたしませぬよ。見知った者の気配がいたしました故、こちらに来ないよう言いに行くだけでございます」
「…本当か?」
「小十郎は梵天丸様に嘘は申しません。一人にさせてしまいますが、すぐに戻ります故」

自信満々にそう答える小十郎に、喜びが込み上げてきて泣きそうになる。

梵天丸は慌てて小十郎が目を逸らし、
「…分かった」
と言って小十郎の袴を離した。
小十郎はまた表情を険しいものにすると素早く去っていった。

…本当にそうだろうか

そんな思いが浮かび、まだ自分が小十郎を信用仕切っていない事に少なからず衝撃を受けた。

嘘だったらどうしよう…

迷った末、梵天丸は小十郎の向かった離れの入り口に一番近い部屋へ向かった。

「…なんだ」
小十郎の声が聞こえ、軽く心臓が高鳴ったが梵天丸は静かに障子に近づいた。
「稽古の時間なんで来てもらえませんすかー?梵天丸様の守り役だとは分かってても小十郎様がいないと覇気が出ねぇんすよー」
砕けたような、軽い調子の声が聞こえる。どうやら、小十郎は稽古をつける立場でもあるようだ。

自分のせいで、稽古が上手く調子が出ていないらしいのは幼い梵天丸にも分かってしまった。
ぎゅっ、と自分の着物の袖を強くつかんだ。
「…まだ無理だ。朝の寒稽古には行くから昼間はおめぇ等だけでしろ」
「了解っす」

あの優しい小十郎が、自分の為だけに部下の願いを断った。

その事に胸が締め付けられる。

きっと、この小十郎と話している男は、もっと前から小十郎の下にいたに違いない。
なのに、なぜ小十郎はまだ出会って二日と経っていない自分の方を優先させるのだろう。

だが、そんな戸惑いの中に喜びを感じている自分に気が付き、自己嫌悪に陥った。

その時聞こえてきた声に、梵天丸の思考が停止した。

「それにしても梵天丸様ってどんな人なんすか?小十郎様子供苦手っすよね?」



小十郎は、子供が苦手…?

その事実が胸に突き刺さる。
そしてこの問いに小十郎が何と答えるのか、とても恐ろしかった。
耳をふさぎたくとも、その答えを聞きたい自分もいて、動くことが出来なかった。
その内に、小十郎が答えてしまった。

「…可哀相な御方だ」

「かわいそう?…っすか?」
小十郎の答えに部下の男も困惑したようだった。梵天丸も、なぜ我儘だ、とか生意気だ、とかではなく可哀相なのか分からなかった。



「まだ幼いのに右目のせいで忌み嫌われてきたのだろうな…。愛されたいと願っていても叶う事がなかった為に本能的に他人を拒絶してらっしゃる」






図、星
小十郎が自分が人に対し思っている事を言い当てたので梵天丸は大いに驚愕した。

なぜ分かった?どうして?

そんな事を考えている間に、笑いだしそうな声が聞こえた。
「…なんか小十郎様が選ばれた理由がわかる気がするっす」
「は?」
困惑した小十郎の声に、俺もだ、と梵天丸は心中で呟いた。
この部下の男が何を言いたいのか全く分からない。
「だってー小十郎様そういうのに無頓着じゃなっ「うるせぇな!」
無頓着と言われてイラつきが頂点に達したのだろう。ごつっ、という嫌な音が聞こえた。
「用がすんだらさっさと行け!」
「いってー。明日の寒稽古、来てくださいよー」
部下の男去っていったのが梵天丸にも分かった。
小十郎は、なぜそこまで分かるのだ?どうして?

小十郎が障子を開くまで、梵天丸はそればかり考えていた。
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