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貴方も私も人じゃない113

「…分かった。貴方のいう流れとやら、ワシは見極めよう」
「………」
「鎮流殿の考えが…間違いでないことを祈るよ」
家康の言葉に源三は目を細めた。
「…間違いかどうかをお決めになるのは、貴方様ですよ徳川様」
「うん?」
「例え周囲が認めても、貴方様が認めなければ貴方様の中では間違いのままなのですから」
「…、ははっ、それもそうだな」
家康は源三の言葉に少しばかり目を見開いたあと、ふ、と困ったように笑んだ。
要は源三が言うのは、自分がその事をきちんと納得せねば、今抱えているもやもやが晴れることはないということだ。
家康は指で自分の唇をツンツンとつついた。
「……………」
「源三殿。正直ワシはまだあの鎮流殿の命には納得できてないでいる。でも…貴方のいう流れの途中なのならば、まだ結果は出ていない。…だから、ワシは」
家康はそう言うと指を離し、にっ、と笑った。源三が訪ねてきた時のような、暗い顔はもうしていなかった。
忠次は人知れずそっと胸を撫で下ろし、忠勝と視線が合うと、にやりと笑ってウインクを飛ばした。忠勝もそれに同調するように、ぎゅいーん、と小さく音を立てた。
源三は細めていた目を、ふ、と一旦伏せ、そしてふふっ、と笑い声をあげた。
「…貴方のお陰で少し気が紛れたというか、もやっとしていたのが晴れたよ。感謝する、源三殿」
「老いぼれの言葉が役に立ったのならば何よりでございます。…1つだけ、老爺の立場での事を言わせていただければ」
「なんだ?」
「お嬢様はああいうお方ですから、基本的に罵詈雑言を吐かれても理路整然と論破するようなお方でございます。それ故何を言われても平気な節はあるのですが…」
「?」
源三は言いながら座っていた腰をあげた。ぱっぱっ、と軽く膝やらについていた砂を払い、にこ、と笑みを浮かべる。
「どうやらお嬢様は徳川様を気に入っておいでのようなので、徳川様に言われてしまっては落ち込まれるやもしれません。意見を申されるときも、あまりキツい言葉は使わないで差し上げてくださいませ」
「………んっ?!えっ!!??!?」
言葉を聞いた家康は、ワンテンポ遅れてから顔をぼんっ、と真っ赤にさせて仰天したように立ち上がった。
源三はわざとらしく笑いながらさっさと陣幕を捲りあげた。
「では、老いぼれは失礼させていただきます。おやさみなさいませ、徳川様」
「ちょっ!まっ、あえっ?!言い捨てはやめてくれ!!」
「何吃ってんだ家康…」
忠次と忠勝はそんな家康をぽかんとしたように見つめた。家康がわたわたとしている内に源三は出ていってしまった。
家康は真っ赤になった顔を隠すように両手で顔をおおった。
「…なぁ、なんでそんな真っ赤になってんだよ」
「……じ、実はワシもよく分からん」
「はぁ?」
「その…ワシは、鎮流殿の事を素敵な人だと思ってて、それだけなんだが、なんでこんな…?」
「…………、家康お前、あの子に恋してんのか」
「こっ、恋?!!?」
あぁ、とややあってから気が付いたような様子の忠次が口にした言葉に、家康はぎょっと忠次を振り返り、驚きのあまりそう叫んだ。忠次は忠勝と顔を見合わせ、ぶっ、と吹き出した。
「お前、まさか!家康にもついに春が来たかーはっはっは!」
「ちょちょちょ、待ってくれ!待ってくれ忠次!そして忠勝も笑わないでくれ!真面目な話だー!」


 翌日。
三成と家康の隊は当初の目的を追えたことから、本隊の後を追うように小田原へ向かうこととなった。
「………源三」
「は」
行軍の、中腹にいた鎮流は、どこか不愉快そうに源三を呼んだ。源三はわざとらしくすました様子で返答する。
鎮流はぎろりと源三を睨んだ。
「家康様に何を吹き込んだの、あなた」
「いえ?ただ、爺やの立場から、お嬢様へ優しくしてくださいとお伝えしたまで」
「…朝からあの人、私と顔を合わせるたびに顔を赤くさせて逃げるのよ」
「おやおや」
「どういうこと?」
「ははは、お嬢様はまだそちらには疎いようですな?」
「おふざけなら許さないわよ」
ぎろぎろと自分を睨む鎮流に、源三は降参と言わんばかりに肩を竦めた。
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