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貴方も私も人じゃない96

 その夕暮れ。
「遅かったな」
「申し訳ありません三成様、少し遠出をいたしましたので」
「相手方の兵も見かけたが、バレずにはすんだぞ!そっちはどつだった」
一人本陣にいた三成は、戻って衣服を元に戻した鎮流と家康を出迎えた。
三成は家康の言葉に目の前の地図を見下ろした。
「特に動きは見られない。秀吉様の本隊は大阪を発ち、今は鈴鹿関にて休息をとっているとの知らせが入った」
「…ではまだ、ここよりは西ですね」
「あぁ。一応斥候は既に送ってある」
「手際がいいな、三成…」
感心したように呟いた家康に、三成はどこかむっとしたような表情を浮かべ、すっ、と懐から小さな紙を取り出した。
「………いくつかの場合の対応策を既に指示されていた」
「お、おお?!」
「急いでの対策だったので、どの隊をとまでは三成様任せになってしまいましたが…。頼りになります、ありがとうございました」
「…、礼をするようなことではない。貴様の方はどうだった」
礼の言葉を口にする鎮流に三成はつれなくそう返し、そう尋ねた。鎮流は小さくうなずいて、懐から手帳を取り出した。
「付近の村々の様子を見てきました。一応此度の相手はこの辺りの領主でもあるので…しかし、村人の様子を見る限り、あまり領主への信用はないようです」
「…それで?」
三成は机に立て掛けていた刀を手に取り、腕を組んだ。鎮流は手帳を見ながらも、机の上の地図も見下ろした。
「村人達の傾向として、戦そのものを忌避している様子が見られます。勝敗はあまり気にしていない、というよりかは、勝てる見込みがないと分かっているようです」
「…、そういえばそう言っていたな」
「派手に戦の形式を作らなければ村人の好感度は上げやすいでしょう。上げておけば後々 面倒なことになりにくい」
「…何を考えている」
鎮流はパタリ、と手帳を閉じると、盤上の地図に示された敵方陣営の所々に碁石をタンと置いた。
「恐らく明日の夕方、西側の陣営から東側の本陣営へ伝令が動くと予想されます。そこで捕虜を得ましょう」
「…捕虜か。取引の材料か?」
「…いえ、今日聞いた限りではこの主は簡単に見捨てるであろうと考えられます」
「!」
「取引の材料というよりかは、戦の後の手駒でしょうか。前回と方向性は同じです」
「一ついいか」
「どうぞ」
三成がふとそう鎮流に尋ねた。家康は僅かに驚いたように三成を見る。鎮流はさして気にもしていないように三成に先を促した。
三成は考え込むように顎に手を当てた。
「何故そうも印象を考える?」
「…、人には物を理解する限界というものがあります。秀吉様のお考えは、その限界を越えている所があります。理解できぬ者が多い」
「……」
「それゆえ反発も起こりやすい。解し難いものは認めたくないものですからね」
鎮流はゆったりと腕を組んだ。
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