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貴方も私も人じゃない102


バァン、と鈍い破裂音が辺りに響いた。

「何事だ!」
「家康!」
それと間髪入れない間に本陣に三成と忠次が飛び込んできた。
忠次はすぐに家康を見た。家康は半ば呆然としたように尻をつき、陣の奥、鎮流の方を見ていた。
家康には一瞥をくれただけですぐに鎮流を探した三成は、僅かに眉間を寄せた。
「…おい、鎮流」
「………ご心配なく、私のものではないですよ」

銃の利点は遠距離から使えるところにある。間合いを詰める事なく狙え、そして弓矢のような技術もさして必要なく比較的誰にでも使える武器だ。そして返り血を早々浴びることもない。それ故に、人殺しをしたことがない者に持たせ殺しをさせるには、刀のような近距離武器よりも、殺したという実感を湧かせにくく手軽な銃が向いているといえよう。
半兵衛が鎮流に持たせる武器として銃をチョイスしたのは、鎮流が女性で近接戦闘では不利という事以外にも、そうした狙いがあったのだろう。
今の鎮流は、その考えとは全く真逆の使い方をしていたが。

鎮流はほとんど距離なしで撃ったことで忍の返り血を盛大に浴びていた。幸か不幸か、頸動脈を撃ち抜いたらしい。鎮流は撃った時のままの格好で止まっていたのをのそのそと動き、顔についた血を血がつかなかった服の部分で拭った。
「…血って目に入るとものすごく痛い……」
「馬鹿者、擦ってどうする。そもそも家康!貴様何をしていた!こいつを一人にするなと先に言い出したのは貴様だろう!!」
目を擦る鎮流の腕を三成はがしりと掴んで止め、家康を振り返りながらそう怒鳴った。
家康は三成の怒鳴り声にはっと我に返った。
「…すまない三成」
「忍だと?どこの奴らだ?そもそもなんでその子を」
「鎮流殿はまがりなりにもここの司令官だ、狙われても不思議じゃない。大丈夫か、鎮流殿!」
「…一応は。射撃の練習は、していましたので」
「…よかった」
家康はほっと息をついた。三成は、ふん、と小さく鼻をならす。
「…他の兵に知れる前にそのなりをなんとかしろ」
「…そうですね。着替えてきます」
「ちっ、見張りは何をしていた…!家康!貴様は鎮流についていろ!私は近辺を見て回る!」
「家康、俺も行ってくる。次は油断すんなよ!」
三成と忠次は防衛体制を見直すべく本陣を出ていった。鎮流も衣服を変えるため、本陣に並列して置かれている小さな鎮流用の陣幕に入った。家康は着替えるのだから中に入るわけにはいかないので、陣の外に立った。
「…本当にすまない、鎮流殿。あなたのことを守ると、この前言ったばかりなのに…」
家康がすまなそうにぼそぼそとそう言ったとき、どさっ、と倒れるような音がしたものだから、家康は慌てて陣幕をばさりと捲り上げた。
陣の中央で、鎮流がぺたりと座り込んでいた。家康は鎮流に駆け寄った。
「鎮流殿!」
「…大丈夫です、すぐに着替えますから」
「大丈夫なわけないだろう!」
家康は鎮流の正面にしゃがみこみ、大丈夫だという鎮流の両肩を掴んだ。
鎮流の体は僅かにふるえていた。血の気が引いた顔で、鎮流は億劫そうに家康を見上げた。
「…、大丈夫ですから」
鎮流はそう言うと家康を押し退けようとした。だが、鍛えられた家康の体はびくとも動かない。
ー困ったな
鎮流は僅かにそう思った。
「嘘を言うな!血に慣れてなくて当然だ!強がる必要はない!」
「強がってなど、」
「鎮流殿!!」
「慣れなくてはならないことであるはずです!」
しつこい家康に、鎮流は叫ぶようにそう言い返した。家康はびくりとして思わず手を離す。
鎮流はぐ、と拳を作って体を起こし、家康に背を向けた。
「…私は軍師です。既に策で人を殺しています。他人に殺させるのは平気で、自分で殺すのは無理、そんな生ぬるい事は許されない、そんな人間になるつもりもない!…今回は慣れるのによい機会でした」
「…!鎮流殿…」
「冷徹な女だと思ってくださって構いません。……、着替えるので出ていってください」

「…嫌だ」

「は…」
出ていけ、という言葉に、家康が鎮流の予想と反する答えを返した。驚いて振り返れば、目の前に立っていた家康は鎮流の両肩を先と同じようにがしりと掴み、勢いよく引き寄せて抱き締めた。
「…なっ…何を!!」
「……これであなたは誰にも見えないよ。ワシにも見えないし、ここであなたが何を言おうとワシは何も聞かなかった事にする」
「!…………」
「…頼むよ鎮流殿……。ワシの事、信じてくれないか」
「…………………」
鎮流は、はぁ、と小さくため息をついた。びくりと家康の体が跳ねたのを感じる。
鎮流はぐり、と額を家康の肩に押し付けた。
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