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貴方も私も人じゃない112

「………それで、話ってなんだ?」
家康は被っていたフードをばさりと下ろした。家康の顔に笑顔はない。
忠次は肩を竦めた。
「そうツンケンすんなよ、家康」
「…」
「徳川様、先の戦闘、お気落ちのものとお察しいたします」
「…、そんなことはないよ。貴方の方こそ大丈夫なのか?」
「ええ、私は何も」
「…、……」
「私は曲がりなりにも男でございますし、この通り老い先短い老年でございますから、お嬢様ほどではございませんよ」
「!」
暗い顔をしていた家康だったが、源三の言葉に僅かにハッとしたように源三を見た。忠次も驚いたように源三を見ている。
源三は困ったように笑って見せた。
「まぁ、あのお方は自らの邪魔をするものは徹底的に排除なさる事を処世訓としておられるお方、普通の女子ほどは傷付いてはいないようではございましたが」
「…!結構物騒な子なんだな」
「物騒!ふふ、確かにそうでございますな。あのお方は敵と見なした相手には容赦なさらないお方ですから」
「………今回の、殲滅の命は…」
家康がぽつり、と口にした言葉に、源三はやはり笑って家康を見た。
「お嬢様にとってはさして意外ではない判断でございました。家柄もあるのでしょうが、あのお方の敵は下手に生かすと後ろから刺されてしまいますからな」
「…………」
「徳川様の、人に期待をお寄せする姿勢も大切なことです、お嬢様にも見習っていただきたいとすら思います。されどそれだけでは生きていけぬものが人の世というものでございます」
「…ふふ、ワシに説教をしに来たのか?」
家康が小さく笑った。家康の表情の変化に、一人忠次はほっと胸を撫で下ろした。
源三はおや、と目を見張る。
「説教をするつもりなど毛頭ございませぬ、ただ、やはり長い付き合いの相手、お嬢様の事を誤解されてはつまらぬと思いましたゆえ」
「誤解?」
「お嬢様は以前にも申し上げたように恐ろしいお方です。されど、それ以上にあのお方は優秀なお方です」
「あの命令に間違いはない、と、言いたいのか?」
「一般論的には、この状況下ならば間違いではないと、私は思います」
家康は源三の言葉に目を伏せ、ふぅー、と長く息を吐き出した。
そして、困ったように笑いながら頭をかいた。
「…、ワシも間違いだとまでは言わないさ。ただ…敵を滅ぼすだけでは、何も終わらないだろう?」
「…お嬢様ならは、滅ぼさなければ終わるのか?と仰るでしょうな」
「はははっ…確かにな」
「…豊臣軍は今、流れにのっている状況でございます」
「?」
家康は、不意に話題を豊臣全体に変えた源三に、僅かに首をかしげた。
源三は小さく両手を広げる。
「流れに乗ったのならば、途中でその流れを止めることはなりません。止めると、中途半端な結果に陥ります。今はただ、その流れの行く先を見定めなければなりません」
「…………」
「日ノ本の統一という目的に向かう流れ、途中で止めてしまってはただ乱世が続くばかりでございます。今は流れに身を任せ、耐える時かと」
「…なるほど、それが貴方の目的か」
「はて…私はただの老いぼれ、ただの1つの例え話でございますれば」
話に来たと言いつつ、源三が家康に、暗に今回のことで鎮流や豊臣に不審や不満を抱くのではなく、まだ今はこの先の結果を待て、今は豊臣に従え、と言いに来たと察した家康はそう言ったが、源三はさらりとそれを否定した。
ふっ、と家康は楽しそうに笑う。
「仮にそうだとして、その流れが着いた先が、泰平の世ではなかったら?」
「そうであったのならば、泰平の世に向けまた新たに流れを作ればよい。その流れが行き着ける場所が、そこまでだったというだけでございます。まぁ、作れるかどうかは、そして誰がその流れを作るかどうかは、分からぬ話ではありますが」
「…………」
家康は源三の話をじっ、と源三の目を見ながら聞き入ると、目を細め、思案するように手を組んだ。
忠次はそわそわとしながら家康と源三の話を見守っていて、源三は慣れたように表情も崩さず、ただ家康の言葉を待った。
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