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貴方も私も人じゃない89

「……な、にをあの方は恥ずかしげもなく……」
少しして我に返った鎮流は赤くなった顔を隠すように手をあて、小さくため息をついた。
「ー…………、変な人」
鎮流は照れ臭い気持ちを隠すようにそう呟くと、休むべく手帳を閉じた。



 翌日。
「鎮流、四番は」
「その隊は岩崎山へ。徳川三番は大岩山を継続してください」
「鎮流殿、賤ヶ岳砦は?」
「五番及び徳川二番を」
「…なるほど、分かった」
鎮流は伊香にある豊臣軍砦への防備配置の指示を行っていた。それぞれ指示を聞いた三成と家康は、特に反論すること無くそれを各隊の隊長に伝えていた。
「…女だ」
「だな…」
「だがあの半兵衛様がお弟子にと迎えられたお方だそうだぞ?さぞや優秀な方なのだろうよ」
「そうだな、でなければ三成様が従うお筈もない」
集められた各隊の隊長らの間でひそひそとそう言い合う、しかし肯定的に鎮流を受け入れている者がいる中、はっ、とあからさまに鼻をならす者もいた。
「どうせ実践経験はないんだろ?まぁあんなのいなくても豊臣が負ける訳ねぇけどな」
「全くよ。女の指示で大丈夫なのか…?」
そんな二人の言葉は隠す気もなく、むしろわざと鎮流に聞こえるように発されていた。家康が苛立ったように眉間を寄せ、三成が静かに刀の鍔に左手の親指をかけた時、鎮流は手で二人を制し、にこ、と笑いながら隊長らを振り返った。
「…家康様、あのお二人はどの隊でしたでしょうか」
「!」
「…四番と徳川三番だ」
「ということは、高山右近殿と榊原康政殿ですね」
「!お、覚えてたのか」
「!なんで名前っ」
焦ったようにたじろぐ隊長二人に鎮流は何も気にしていないかのように笑う。
「何故って、隊の構成、隊長の名前、その隊の特性や得意分野などは頭に入っていて当然でございますので。お二人が守られる岩崎山大岩山は敵方が動くとすればまず狙われると予想されます、お二人は随分と自信を持っておいでのようですので、期待させていただきます」
「…っ……」
「…、ちっ」
にこー、と可愛らしく笑って見せながらも、それを向けられた二人は鎮流のプレッシャーを与えるような言葉に、気まずそうにしながらそそくさと立ち去った。
三成は、ふん、と鼻を鳴らした。
「何をボサボサしている、早く行け!」
「は、はっ!」
残っていたその他の隊長らも、三成の一括に慌てて支度へと向かっていった。
家康は、ふぅ、と息をついた。
「…っふふ、鎮流殿は言葉の扱いが巧みだな」
「むしろ、あの程度でよかったのか?」
「ええ、中途半端に矜持の高い殿方は理詰めすればするほど反発するものですから。逆に必要以上に持ち上げた方が楽なものです」
「ははっ、あれだけ見栄を切っていて武功をあげられなかったら自ら恥じるだろうしな」
からからと笑う二人だったが、ふ、と三成は盤上の地図に目を落とし、考え込むように目を細めた。
「…、鎮流。貴様は岩崎山と大岩山が最前線だと言ったな」
「…、一番動きを起こす確率が高いのはそこかと」
「そこを前線と思うのならば何故、この部隊では最下位の二隊を配置した?」
「……、確かに」
二人は同時に鎮流を見た。
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