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貴方も私も人じゃない100

「…、でもあそこは降伏の調停をちゃんと結んだし、当番の兵も…まさ、」
まさか内通側の、と言いかけた家康を鎮流は手で制した。
「…何故かはまだ分かりませんが、あちらにも注意を向ける必要はありそうです。ですから、休めるときに休んでおいてください」
「…承知した」
三成は静かにそう言うと陣を出ていった。陣の中には鎮流と家康が残される。
鎮流は早々に地図を広げ、うーん、と小さく唸った。
「あー…その、鎮流殿」
「そういえば、前に酒井殿がお見えになられたことがありましたが、その後変わりありませんか」
「えっ?!忠次が!?」
「ええ。お話されては?」
何か鎮流に話しかけようとしていた家康だったが、鎮流の言葉に仰天したように飛び上がった。話してはいないだろうと思っていた鎮流だったが、家康の反応にくすりと笑いながら作業の手を止め、家康を見た。
「初耳だ…ま、また無礼なことを言ったりはしていないよな?!」
「そのようなことはありませんよ。ただ、私とあの方とはあまり気が合わないようです」
「…、すまない」
「貴方様が謝るようなことではありませんわ。ただ、以前私を軍師として迎えたいと仰ってくださいましたが、反対は大きそうですよ」
「!そうかー…それは困ってしまったなぁ」
家康はおどけたようにそう言う鎮流に困ったように笑ったあと、ふ、と真顔に戻った。
「…、鎮流殿、無理することはない」
「?無理とは」
「大分あなたもまいっているはずだ、顔色でわかる」
「!…………」
鎮流はとっさに顔を手で覆った。

確かに僅かに疲れは感じ始めていた。今までこれほど長時間気を張り詰めたことはなく、肉体的には疲れていなくても精神的に疲れてはいた。だが、これからまさにというタイミングでそうは言っていられない。

隠しているつもりだったが、家康にはばれていたようだ。
「…少し休んだ方がいい、鎮流殿」
「しかし…」
「大丈夫だ!今夜はもう動かないだろうし、斥候を置き直してもある。何かあればすぐに起こせるよう、ワシが隣にいるよ」
「…ですが……」
「いいから!戦は体力勝負なんだ、あなたこそ休まない、と!」
「うわあっ?!」
痺れを切らしたように家康はがしっ、と鎮流の腰をつかみひょいと持ち上げた。鎮流は軽々と持ち上げられたことに驚き、慌てて家康の腕にしがみつく。
家康は持ち上げた鎮流を見上げ、にこ、と笑った。
「…、流石に軽いな、あなたは」
「…、分かりました、休みますので下ろしてくださいませ」
「よかった!座っていててくれ、何か掛け布になりそうなものを持ってくるよ」
家康はそう言うと、陣の隅にあった筵の上に置き、どこか嬉しそうに陣を出ていった。
鎮流は困ったようにため息をつきながらも、疲れていたのは事実、積み上げられた藁にぼすん、と背を預けると、家康が戻ってこない内にうとうとと船をこぎ始めてしまった。
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