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貴方も私も人じゃない105

三成は陣の外に立った。鎮流の陣には屋根があり上部からの侵入はそう容易くはなく、外からでも十分に護衛はできる。
鎮流は陣の中央辺りで引いてあった蓙に腰を下ろした。
「…それで、何かしら?」
源三は両手を太股に、鎮流の正面の地面に膝をついた。
「お嬢様には回りくどくではなく、単刀直入に申し上げた方がよろしいでしよう。…お嬢様、何事かなさいましたな?」
「…それはつまりどういうこと?」
「顔色が酷うございます」
「…!流石に長い付き合いだとバレるものかしら」
鎮流は源三の言葉に顔に手をあて、意外そうに源三を見た。源三は源三で、鎮流の言葉に、顔をしかめる。
「……何があったのか、お聞かせ願えますか」
「…殺されそうになったから殺したのよ」
「なっ…!」
源三は鎮流の言葉に愕然としたように目を見開いた。鎮流は手で目元と額を抑えた。
「…流石に少し精神的に来たわ」
「お怪我はなさいませんでしたな?!」
「…!」
僅かに焦ったような声色でそう尋ねた源三に、鎮流はまた意外そうな視線を向けた。
「…責めないのね?人殺しになったというのに」
「!……、この世界に人殺しはならぬという法はありません。それに、お嬢様の生存が、私には第一でございます」
「…そう」
「…責めてほしい、というわけでもございますまい?」
「………本当、あなたは私のことをよく分かっているわね」
「!」
くす、と僅かに笑いながら、そしてどこか嬉しそうな楽しそうな声色を混ぜて言った鎮流の言葉に、今度は源三が驚いたように鎮流を見た。
鎮流は目元に当てていた手を頬に落とした。
「……平静を装おうとしたら、家康様には少しばかり責められたのよ。あの方にそのつもりはなかったかもしれないけれど」
「徳川様が?…、まぁ、あの御方は…お嬢様を庇護の対象と見ているところがございますから」
「そうね。私が我慢することに、あの方が耐えられなさそうな雰囲気だったわ。変な御方」
源三は鎮流の雰囲気と言葉に目を細めた。
「……、お嬢様、問題はないのでございますか」
「…戦の最中という緊張感のせいか、意外と平気よ。後で来るかもしれないけど」
「…お嬢様、1つ、嘆願がございます」
「なぁに?」
鎮流は源三がこれから言う言葉を予想できてでもいるのか、どこか楽しげに笑いながらそう尋ねた。
源三はそんな鎮流の表情を気にすることなく、だが僅かに笑みを浮かべて口を開いた。
「この老いぼれを、お嬢様のお側に置かせてはいただけないでしょうか。お嬢様がそのフリントロック銃を、抜くことがないように」
「…あなたの好きになさい」
「…ありがたき」
源三は鎮流の返答に、少しほっとした様子でそう答えた。
鎮流はそんな源三に軽く肩を竦めると、ぐ、と背を伸ばした。
「…っ、ふぅ。私も少し休むわ、流石に気を張り詰めると疲れる…」
「承知いたしました。失礼いたします」
「日の出の頃には起こしてくださいな。あぁ、それから爺や」
「はい」
「その格好、似合ってるわよ」
「!…ふふっ、ありがとうございます。それではお休みなさいませ、お嬢様」
「ええ」
源三は一礼すると、陣から出た。鎮流は、ふわ、と小さく欠伸をすると、ぼすんと横になった。


 「……おい」
「!は」
源三が陣を出ると、三成が源三を呼び止めた。源三は僅かに驚いたように三成を振り返ると、三成の方へ歩み寄った。
「………貴方様は石田三成様、でしたな」
「話は聞こえていた。貴様、奴の護衛をできるだけの力はあるのか?」
「それを言われてしまうと困ってしまいますな…。隊を率いるほどのお力を持つ石田様の足元には到底及ばぬほどのものでございます、が…」
「…?」
三成はその時に源三が一瞬浮かべた表情に、僅かに眉間を寄せた。
源三は気付かれたことには気が付かなかったか、すぐにふわりとした柔らかい笑みを浮かべた。
「私には意地がございますので」
「…何故そこまで尽くす。貴様らの会話を聞いていると、どうにも理解ができん」
「おや、そうでございますか?」
源三は三成の言葉にキョトンとしたように三成を見た。
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