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貴方も私も人じゃない111

「酒井様は出来たお方なのですな」
「はぁ?!」
「自らの不満を徳川様のせいにはなさらないでしょう」
「!…………」
忠次は源三の言葉に驚いたように源三を振り返った後、どこか照れ臭そうにそっぽを向いた。源三は忠次の隣に腰を下ろした。
「徳川様が誰にも会いたがらないのは、やはり先の作戦でしょうか。徳川様は、ある意味で命令違反ですからなぁ」
「…!そういや、アンタあの女と付き合い長いんだってな」
「そうですな、長いといえば長いですな」
「今回の命令は、アンタから見たらどうなんだ?」
気に食わない、とでかでかと顔に書いてある忠次に、源三はふふっ、と笑った。
「お嬢様があの可愛らしいお顔に反し残酷な判断をなさるのは昔からです、あのお方は意外と恐ろしいお方ですから」
「あの顔みても可愛いとは思わねーぞ」
「ほっほっほっ、そうですか」
忠次の容赦の無い言葉に源三はただ、小さく笑う。源三の笑い声に、忠次もくっくと笑った。
忠次は朗らかな雰囲気の源三に、少しばかり気を許したようであった。
「…ま、殲滅の命に納得してなかったし、家康はそういうの出来ねぇ奴だから」
「そうですね、あのお方はそういうお方のようです。お嬢様が徳川様を裏切った味方の撃破に向かわせなかったのも頷けるものです」
「…!まさか、」
忠次は源三がさりげなく口にした言葉に、少し遅れてはっと何かに気が付いたように源三の方を向いた。源三は忠次の視線を受けて、ふ、と小さく笑う。
「前回の戦を見るに、よほどでないと竹中様は逃げ出す敵兵にはそこまでの興味はないようです。今回も、お嬢様がここへ派遣されたのはあくまで裏切りの動きがあった為…それ以外の敵方が殲滅できなくとも、そう責を問われることはないと、判断なさったのでしょう」
「……………」
「…しかし、徳川様にはお会いできませんか、困りましたな…」
「………、来いよ」
「はい?」
源三の言葉にしばらく考え込む様子を見せた後、不意にそう言って立ち上がった。源三は、表面では意外そうに忠次を見上げた。
忠次は源三をちら、と見下ろし、腕を組む。
「…あいつ、意外と言わなきゃ分からねぇとこあるんだよ。勝手に思い込んで、聞きもしねぇでさ」
「………」
「俺が説得してやるよ、ついてきな」
「それはそれは、お手間をお掛け致します」
「いいさ。正直、俺もあの子は悪印象が強くて、そこまで思いもしなかったしよ」
気まずそうにそう言う忠次の背中をみながら、源三は小さく笑った。
ー……、意外と簡単ですね
胸のうちでそう呟きながら。


 「おい、家康!」
「………なんだ」
家康が閉じ籠っている陣幕の中へ、忠次は外から声をかけた。億劫そうな家康の声が中から帰ってくる。
「源三殿がお前と話したいってよー!」
「…悪いんだが、また今度にしてくれないか」
「…そうやって閉じ籠って、お前の思い込みで押し込めて解決させても、正しいとは言えねぇだろ」
「…なんだと?」
忠次の言葉に返した家康の言葉は、僅かに苛立っているようだった。忠次はそんな、ある意味珍しい姿にも慣れたように肩を竦めた。
「事実だろ?お前が勝手に一人で背負いこんでんのはよ。俺にも何も言わねぇで…たまには外野の言葉も聞いてみろよ」
「…………」
ぎゅいん、と小さな機械音がした後、ばさりと幕をあげて家康が顔を覗かせた。家康は不愉快そうに忠次を見る。
「…ワシが人の話を聞かないとでも?」
「そう言う訳じゃない。だけど、そういう面もあるだろ」
「………。何のようだ、源三殿」
家康は不愉快そうなままだったが、源三の方に視線を向けた。源三は薄く笑み、頭を下げた。
「徳川様が気に病んでいらっしゃるのではないかと思いまして」
「!」
「…案外ずばっと言うな…」
「取り繕いは不要かと思いまして。少し、この老いぼれの話でも聞いてはいただけませぬか」
「………、二人とも入ってくれ」
家康はしばらく源三を見つめた後、そう言って源三と忠次を陣幕内に招き入れた。
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