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貴方も私も人じゃない107

「…、………」
「…鎮流貴様、今何を考えている」
「…どうするのが一番よいか、を」
三成は鎮流の言葉に目を細め、考え込むように唇に指を当てた。鎮流はまた地図に視線を落とす。
家康が前に落とした山城はじわじわと、気付かれないようにはしているが動きを見せている。大岩山と岩崎山も、いつでも動ける状態だ。
ー…どうしたものか…
「…そういえば、先までは三成様は何処へ?」
「この近辺と、ここにいる兵の様子を見ていた。一人、内通者とおぼしき奴がいた」
「!」
「泳がせてある。だが、そいつは大崎山の向かいの敵陣に向かったように見えた」
「…なるほど。なるほど………」
鎮流は三成の言葉を聞き、ぽつりとそう二度呟き、目を閉じた。小さく口のなかでぶつぶつと呟いている。三成は腕を組んだまま、そんな鎮流をじっと見ていた。
「……」
「…よし」
鎮流は、伏せていた目を開けた。

「動きましょう」



 その夕暮れ、日が沈んだ頃。陣に戻ってきた家康は、三成の姿が見えないのに気がついた。家康はきょろきょろとしながら、陣に残っていた忠次を見つけた。
「忠次!」
「!家康、戻ってたのか」
「あぁ。変わりはないか?」
「特にはな」
「なぁ、三成は?」
「石田?…そういえば見てないな」
「………、分かった」
「おっおい、家康!」
家康は端的に忠次に礼を言うと、忠次の慌てたような声も耳に入らなかったか、本陣に向かって走り出した。
 本陣に入れば、そこには鎮流と源三がいて、三成の姿はなかった。
「家康様、戻られて、」
「三成をどこへ動かした?」
鎮流の言葉を遮るような家康の言葉に鎮流は僅かに驚いたように家康を見た。だが家康の反応は予想の範疇だったのか、ふ、と小さく笑った。
「どうなさいました、怖いお顔をなさって」
「三成をどこへ動かしたんだと聞いてるんだ」
「…、敵のところへ」
「敵…?大岩山と岩崎山か?」
「…それを見極めるのも兼ねて、三成様にお願いしました」
「……どうしてワシを待ってはくれなかったんだ?」
家康の言葉に鎮流は目を伏せた。くいくい、と指で家康を手招いた。僅かに不思議そうに近付いた家康の目を見つめ、トッ、と指を家康の胸に立てた。
「…貴方様には向いていないと、判断したからです」
「!?どういう意味だ?」
「私はこう命じました。“敵は殲滅せよ”と」
「!!」
家康は驚愕したように目を見開き、がっ、と鎮流の服の襟首をつかんだ。それとほぼ同時に源三が一歩前に出て鎮流を掴む家康の腕を掴んだ。
鎮流はさして気にすることなく家康を見上げた。
「…ですから、貴方様には向いていないと申し上げたのです」
「どうして…!」
「一度裏切った者はまた裏切る。以前にも言ったでしょう、敵に対する対処は2つ。囲い込むか、滅ぼすかだと。だから滅ぼすのです」
「…!三成を追う!」
「追ってどうするのですか?止めるのですか」
「…ッ」
源三の手を振り払って鎮流から手を離し、背を向けた家康は、背中に投げ掛けられた鎮流の言葉に足を止めた。鎮流は淡々と言葉を続ける。
「止めて何になるのですか」
「…鎮流殿、殺すだけでは戦は終わらない!殲滅の命は間違ってる!」
「ではどうしろと?中途半端に命を救った山城の兵共は、早速貴方様を裏切ったのですよ」
「…ッそれは、」
「豊臣の横暴なやり方だからそうされる。だからこそ異なるやり方をしなければならない、そう思っておいででしょう」
「!」
家康ははっとしたように鎮流を見た。鎮流は口元に手を当て、くすり、と小さく笑った。
「…それも違いますよ家康様。相手が誰であろうとそういう人間は裏切るものです。それを許したところで彼らは変わりはしない」
「それは…やってみなければ分からない!」
「貴方様は確証のないことで味方の命を無駄に散らすおつもりですか」
「!!」
家康はピシャリと撥ね付けるように鎮流に言われた言葉に、驚いたように、そして悲しげに顔を歪めた。
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