スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

貴方も私も人じゃない110

源三は、にこ、と笑った。
「いいえ。寧ろ、私がお願いしたくらいですよ」
「…どうしてだ」
「特別深い意味はございませんよ。私が気にかかっただけのことです」
「……、まぁ分かったよ。ただ、貴方の実力がどれくらいか分からないし、危ないからワシの側にいてくれ、いいか?」
「承知いたしました徳川様」
源三がそう返事した時、ピィィ、と鋭い音が響いた。
斥候の、敵発見の合図だ。
「動いたな…!行くぞ!」
家康の張り上げた声に、おぉ、と声が上がる。
「若さとはいいものですな」
源三は人知れずそう呟いた。


家康が動かした隊は敵の本営の砦を叩いた。逃げ出す者を追い根絶やすことは、殲滅することは、家康には出来なかった。
裏切りを犯した大岩山と岩崎山、そして件の山城は、三成率いる別動隊の手によって、跡形もなく滅ぼされたのだった。

二人から報告を聞いた鎮流は、労いの言葉をかけ二人を下がらせ、一人になった後ポツリと呟いた。
「…困ったお人。でもそれ以上に、メンタルケアが必要かしら。爺やのお手並み拝見、ね」

 鎮流が言うまでもなく、源三はようやく戦闘の興奮から落ち着き始めた陣内で、家康の姿を探していた。
途中、三成とすれ違う。すれ違い様、三成が口を開いたものだから、源三は一旦家康を探す足を止めることになった。
「貴様、家康と共に戦場に出たそうだな」
「お耳が早いですな」
「…貴様はやったのか」
「ええ、何人か。きちんと確認はしていないので正確には分かりませんが」
「!…その割には、随分と落ち着いているな」
三成は源三の言葉に僅かに驚いたようにそう尋ねた。源三は困ったように笑う。
「この年になりますと早々多少のことでは動揺しなくなりますのでなぁ…はは」
「………」
「それに、人が殺されるのを見ることも、誰かを殺そうとしたことも、なかったわけではございませんから」
「……戦とは無縁の人生だったのではないのか」
「ええ、確かにこうした戦争とは無縁でした。されど、戦争でなくとも人は人を殺すものなのですよ、石田様。特にお嬢様のお父上のようなお方に仕えておりますと」
源三の何かを言い含めるような口振りに、三成は僅かに苛立ったように眉間を寄せたが、それ以上何かを言いつのる事はなく、ふいとそっぽを向くとそのまま立ち去ってしまった。
源三は少しばかり困ったように笑った後、再び家康を探すべく前を向いた。すると、そこには忠次の姿があった。
「おや、貴方様は確か…酒井様」
「よう爺さん。何やってんだ」
「少しお話ししたきことがあり、徳川様を探しております」
「家康は誰にも会わねぇよ」
「おや、それは何故でしょう」
「アイツが誰にも会いたがらねぇからだ」
「それは困ってしまいましたね…」
源三はそう口にしながらも、さして困ったようには見えない顔で首をかしげた。
ー…意外と思想やお考えは若い方だ。豊臣には合わないお方だ。お嬢様が警戒なさるのも、そしてお気に入りになさるのも、頷けるというものですな
「…………」
忠次はそう胸のうちで呟く源三を不愉快そうに見ていた。
その視線に気が付いた源三は、忠次の関心を逸らすことにした。
「…ところで誰にも会いたがらないというのは、貴方様にも?」
「…だったらなんだよ」
「いえ、貴方様も少しばかり、ご不満そうな顔をなさっておいでなので」
「なんだと?」
「酒井様は、本多様に比べるとあまり徳川様に頼っていただけていないようでしたので」
「!」
忠次は源三の言葉に仰天したように源三をまじまじと見た。源三は、ふふ、と小さく笑う。
「長らく気難しい主人に仕えておりますと、不満だとかに敏感になるものでしてな」
「………悪いかよ」
「いえ、当然の感情です。どうにも徳川様は、配下の方をお頼りにならない方ですからな」
「…今だって、忠勝はアイツと一緒にいるんだ。分かっちゃいるさ、俺じゃあ役不足ってな」
忠次は不満げにそう呟くと、その場にどっしと腰を下ろした。
<<prev next>>
カレンダー
<< 2014年08月 >>
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31