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貴方も私も人じゃない91

「…各方面に斥候を置いて相手の動きを待つ…か」
「ここの隊は決して数が多いわけではありません、それが確実でしょう。それに、この周辺を探っておけば、本隊の後衛にも役に立つでしょう」
「…そうだな。よし、なら残りの隊の四分の一は斥候に回そう」
「選別はお二人にお任せしても?」
「構わん。行くぞ家康」
「あぁ!」
二人は鎮流の指示の元、斥候のメンバーを選別すべく本陣を出ていった。
鎮流は一通り終わった作業に、ふぅ、と息をついた。そこへ、ばさり、と布が捲り上げられる音がした。
「…酒井殿ですか。何か御用ですか?」
本陣に入ってきたのは忠次だった。忠次は捲り上げた布を静かに落とし、じ、と鎮流を見た。
「…昨日は失礼しました、軍師殿」
「あぁは言いはしましたが、気にしておりませんよ。それで?」
「…家康は……」
「家康様ならば斥候を出すための選員に出向かれました」
「…そうですかー……」
忠次はそう言いながら、しかしすぐに陣から出ていこうとはしなかった。鎮流は、あぁ、と小さく呟き、忠次を振り返った。
「…用件は別におありでしたか」
「!」
「お聞きしましょうか」
「…なら聞かせてもらいましょうか」
忠次はちらり、と外の気配を伺った後、僅かに鎮流に近寄った。
「アンタ、いったい誰なんです?」
「それは私の出自のことでしょうか?」
「…まァそうですね」
「しがない名も知れぬ豪族でございますよ。私は故あって家から離れた者です」
「…それでどうして家康と」
「途中立ち寄った村でたまたま。行く宛がないとお伝えしたら、一緒に来ないかと。半兵衛様にはその少し前に、下見にいらした所でお会いしていて、再度お会いした時に軍師にならないかとお誘いいただき今に至っております」
淀みなく答えた鎮流に、忠次は僅かに眉間を寄せ、ちっ、と小さく舌打ちをした。
立ったままらた苛立ったように腕を組む。
「……あの竹中半兵衛が、出会って数日の人間を指揮に飛ばすとは思えないんですがね」
「そうでしょうね。ですから、三成様と家康様の部隊に配属されたのではないかと私は考えております。万一私がヘマをしたとしても、あのお二人がいれば挽回はできるでしょうから」
「……、なんで誘いを受けたんだ」
「そうですね。1つは生きる為の糧の確保が必要だったから。家を離れた身ですから、家は頼れません。もう1つは、興味があったからです。元より父の血でも引き継いだのか、作戦や策略を考えることは嫌いではないですし、得意でしたから」
「……………」
忠次は鎮流の言葉に眉間を寄せ、押し黙った。鎮流はじ、と忠次の顔を見つめた後、ふっ、と小さく笑った。
「そのお顔を拝見する限り、家康様が私を拾ったことが解しがたい、といったところでしょうか」
「!」
「家康様にお会いしたときは軍師になるなどこれっぽちも想像も考えもしておりませんでしたから、まぁ、言うなれば猫を被っておりましたからね。軍師見習いとしてここにいる以上、そんな猫は必要ではありませんから」
「……つまんねぇ女だな、アンタ」
「あら、主に似て存外はっきり仰るのですね。まぁ、面白いと言われたことは確かにありませんが」
「どうして開き直る。不愉快だぜ、そういうの」
「まぁ。殿方は基本的に少しバカで自分に従順な女以外は皆不愉快に見えるのではなくて?」
「なんだと?」
忠次はぴくりと眉を跳ねさせ、組んでいた腕を解いてまた鎮流に近寄った。
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