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貴方も私も人じゃない88

「…鎮流殿……」
伝達を三成に任せ、本陣に戻るとどこかしょんぼりした様子の家康が待っていた。忠次の姿はない。
鎮流は家康の様子にくすりと笑った。
「気にしておりませんわ、そう落ち込まれないでくださいませ家康様」
「…、そう言ってもらえると助かるよ」
「ふふ、ああいう反応をされるのが普通のことでしょう」
「…、………」
「ご心配無く、いずれ実力で跳ね返しますので」
「!」
家康の様子に小さくため息をつき、にっ、と笑いながら鎮流が口にした言葉に家康は驚いたように鎮流を見、ふっ、と困ったような笑みを浮かべた。
「…、あなたは、ワシと会った直後から、大分変わったな?」
「?自分ではそう思いませんが」
「あぁ。今の方が、あの時よりずっと輝いている」
「…!」
鎮流は家康の言葉に僅かに目を見張った。家康は、ははは、と照れ臭そうに笑う。
「その…なんというか、今のあなたは、とてもこう、以前よりありのままでいるように見えるんだ」
「……れりごー?」
「んっ??」
「あ、いえ、お気になさらず。そう…見えますか?」
「ん?あぁ…その、前のあなたは何を考えているか分からなくて、当然のことなんだがひどく警戒していたし、決して自分を見せないようにしていた。なんだろうな、背を向けたら刺されそうな気がしていたよ」
「…まぁ。前半は否定いたしませんが…」
「…今のあなたは、そう、少しずつワシや三成に自分を見せてくれるし、自信を持っているように見える。だからワシにはあなたがとても輝いて見えて、素敵に思えるんだ」
家康はそう言って嬉しそうににこにこと笑った。鎮流はそんな家康の笑顔に僅かに頬を染め、目をそらす。
家康の毒気のない笑顔は鎮流にとっては毒だった。
「………家康様。少しばかり、照れます」
「えっ?…あ、いや、そのっ、ワシは…!…うー……」
家康は自分の言った台詞の臭さに気がついたか、ぼんっ!と顔を赤くさせ、しどろもどろに視線をさ迷わせた。
鎮流は空気の流れを変えるため、こほん、と小さく咳払いをした。
「それより家康様、明日以降の事なのですが…」

鎮流がそう言おうとした瞬間、不意に家康が鎮流の両肩をつかんだ。
鎮流を振り返らせようとするその動きに鎮流は驚きーー

ーーー思わず不審者に対するように家康をくるりと回して転ばせてしまった。

「ぅわぁっ?!」
「あ」
家康は勢い余って鎮流の前にあった机に衝突し、派手な音をたてて転んだ。鎮流は転ばせてから自分の行動に気がつく。
「…申し訳ありません、くせでつい」
「…だ、大丈夫だ……」
「しかし、急に何故…「鎮流殿!」
家康はがばっ、と起き上がると鎮流に向き合うように立ち、がっ、と鎮流の両手を掴んだ。鎮流は視線を一度手に落としたあと、家康の顔を見る。
家康は僅かに顔を赤くさせながら、にこり、と笑った。
「…ワシはあなたの事を素敵だと思う。これは本心だ」
「…………」
「あなたのことはワシが守る。だからあなたは、存分にその腕を振るってくれ!あなたが願う分だけ…」
「…は、はい……」
「…、それを言いたかっただけなんだ。もう夜も遅い、早く休んだほうがいい」
「…はい、そういたします」
「あぁ。おやすみなさいだ、鎮流殿!」
家康はそう言うとぶんぶんと握っていた手を振り、軽い足取りで陣を出ていった。
鎮流は離された時の体勢のまましばし固まっていた。
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