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貴方も私も人じゃない90

「…、半兵衛様にいただいた情報を考慮すると、あの二隊には少しばかり、敵方と内通している疑惑がありましたので」
「!」
「それは…」
鎮流の言葉に家康は困ったような驚いたような表情を浮かべ、三成は眉間を寄せ、表情を険しくさせた。
鎮流は手帳に小さく畳んでしまっていた、半兵衛から渡された紙を開いた。その紙は内通者ありとの報が記された書簡だった。
「…何もないことが勿論ですが、ないとは言い切れません。無論、それはどの隊にも言えることではありますが…疑念が大きい方から潰すに限ります」
「囮ということか?」
「いいえ。本当に内通していたとしたら、相手が動き出したら裏切るはずです。最前線に置いておけば、裏切られたところで背中から撃たれることはありませんから」
「…なるほどな」
「…、味方を疑うことは不愉快なこととお察しいたしますが…」
苦虫を噛み潰したような顔をしている家康に対し、三成は比較的気にしている素振りはない様子で、僅かに肩を竦めた。
「貴様の判断は間違っていない。半兵衛様も危惧されているのだろう?」
「恐らく。直接仰りはいたしませんでしたが、こうしたものをわざわざお渡しになったということはその疑念はあるということです」
「……、やれやれ困ったな。でも、彼らを問い詰めはしないのか?」
「問い詰めたところで動きが慎重になるだけでしょうし、何より一度裏切ったような人間は早々信用は置けませんからね」
三成は鎮流の言葉にぴくり、と僅かに指を跳ねさせ、じとりと鎮流を見つめた。
「……それは、裏切ってくれた方が楽、ということか?」
「ある意味そうです。それに…」
鎮流は紙を再び手帳にしまい、ぱたん、と手帳を閉じた。

「敵方と内通するような弱者は、何の役にも立ちませんから」

家康は鎮流の言葉に、目を見開いて息を呑んだ。鎮流は小さくため息をつく。
「…私の父も騙し合いの世界に生きていた人でしたが……その世界でも、結局己が勝てない相手を倒すために他力に頼る者はその程度、頂点に立つことも功績を残すこともなかった。ほとんど捨て駒にしかなりえていなかった。彼ら自信は、なりたくなくてそうした道を選んだのでしょうが…」
「………」
「フン、当然だろうな」
「三成、」
「あのお二人も、相手が本隊が動かなければ攻めも出来ない程度という事に気がつけばいいのですが…まあ、無理でしょうね」
鎮流はそう言って肩を竦め、指示のために荒れていた机の上を片しはじめた。
三成はちら、と家康を見たあと、鎮流に向き直った。
「鎮流。秀吉様は今日、大阪を発たれるのだったな?」
「はい。恐らく敵方は本隊が美濃の辺りまで行ったところで動き始めるはずです」
「…、ならば、動き出すのは明後日からその翌日にかけて」
「…明後日からが正念場か」
「そうなるでしょう」
鎮流は、きゅ、と拳を握りしめた。
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