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貴方も私も人じゃない93

「…よし、行こう」
「はい」
それから少しして、目立たないように衣装を変えた二人は陣から出られるところを見られないように気を付けながら道に出た。
鎮流は着付けてもらった小袖を見下ろした。
「…動きにくい」
「?どうした」
「いえ、なんでもありません。参りましょうか」
「あぁ!」
家康はにっ、と笑った。


 一般人に扮した二人は辺りを見て回るために村の方へと降りた。村では市場が開かれているようで、人で賑わっていた。
中には、敵方の兵士と思わしき男衆も紛れていた。鎮流は僅かに目を細めた。
ー…村人にあまり彼らを歓迎している様子はない。それが僅かに救いかしらね…
「…、家康様」
「ん?」
「…村人たちの心境が知りたいところです」
「……そうだな」
「そこの兄さん!ここいらじゃ見ない顔だな?」
店を出していた老年の男の一人がそう家康に声をかけた。家康は鎮流と一瞬目を合わせた後、にこっ、と笑った。
「あぁ、用があって京に行くんだ!…、なんだか雰囲気が悪いな?」
「あぁ…こっから少し離れたところに豊臣が布陣しててな?それとうちのご領主様が敵対しようとしてんだよ、お陰で兵で若い男は取られちまうし…全く迷惑なもんだよ。豊臣に勝てるわけがないのに…」
「…(…、そういえば職業軍人の仕組みを作ったのは織田信長。未だその概念はないのか…)」
「そうか…それは大変だなぁ。豊臣が攻めてきたのか?」
「いや、そういうわけではねぇみたいだ…。攻めてきてたら、こんな村もう焼け落ちてるよ」
「…、それもそうだな…」
「ところで、隣の女子は?恋人さんかい?」
「いっ?!あ、いや、彼女はえっと…!」
「!…、そういうわけではありませんわ」
「そうなのかい?お似合いに見えるけどなぁ」
「ははは………」
「まぁ、京までもう少しだ!気を付けていかれよ」
「あぁ、ありがとう!行こうか」
「えぇ」
二人は軽く礼をすると止めていた足を動かした。
そこでふ、と鎮流は思い当たったことがあり、家康の服の袖を引いた。家康は僅かにつんのめりながらも立ち止まった。
「?どうした?」
「いえ、思ったのですが、名前で呼び合うのは些か危険です。私はともかく、貴方様は特に」
「…!……、それもそうだな。じゃ、じゃあ…鎮流、と……?」
呼び捨てすることに抵抗があるのか、僅かに照れながらそう言った家康に鎮流は小さく頷いた。
「私はそれでよいかと。貴方様は…」
「そうだな…、竹千代でいい」
「竹千代?」
「あぁ。お互いに、殿とか様は無しだ。これでいいか?」
「…、承知いたしました、それで」
「あぁ、その口調も変えないか?ちょっと農民があなたのような口調なのはちょっと変だ」
ぴっ、と家康は人差し指をたててそう告げた。鎮流は僅かに驚いたように家康を見たが、納得したか、それもそうかと言いたげになんどか頷いた。
「分かった」
「…おぉ、新鮮…」
「はい?」
「いやいいんだ、行こう」
家康はそう言うと何故か嬉しそうに笑い、また歩き出した。
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