2012-2-23 19:01
それから30分後。
「遅い!」
長曾我部と伊達はまだ帰ってきていなかった。
毛利は苛立ったように、しかし規則的に指で机を叩いていた。
「落ち着きたまえ。…爪が割れてしまうよ」
「割れぬわ。計算済みよ」
「…だが、確かに遅いな…。何も起きてないといいんだが…」
「!徳川殿………」
徳川の呟きに、真田も僅かに不安を覚えた。
その時、部屋の扉が勢いよく開いた。
「秀吉さん…ッ」
「!?政宗、」
「元親ッ?!」
そこには、ぐったりとした長曾我部を背負った伊達がいた。結構な距離を歩いて来たのか、伊達の息は荒い。
毛利は真っ先に2人に駆け寄った。
「何があった!」
「大谷さんが…」
「吉継?!」
―――――――――――
コンビニを出た2人は行きと同じように他愛のない会話を交わしながら歩いていた。
その時、伊達が携帯が落ちているのに気が付いた。
『携帯落ちてら』
『ん?…あれっ?』
『?』
長曾我部は屈むとひょいとそれを持ち上げ、くるくると手の内で回した。
『これ、吉継の携帯じゃねぇか。白に赤いラインに…あ、ほら、やっぱり。向かいあってる蝶々のシール』
『…でもなんでこんな所に落ちてんだ?落としたのか?』
『……いや、それはねぇと思う…』
『?』
伊達の言葉に携帯を開いた長曾我部は表情を険しくさせた。
立ち上がり、携帯の画面を伊達に見せる。
『文字打ってる途中だぜ?』
『…本当だ。え?じゃあなんで?』
『……誰かに襲われた、とか』
長曾我部がこぼした言葉に2人は顔を見合せ、携帯が落ちていた場所のすぐそばの、路地裏に続く道へと目を向けた。
『…ちょっと見てくるか。政宗は俺の少し後ろにいろ』
『分かった。…本当にピンチなら俺も加勢すっからな』
『本当にピンチならな。…まだうちが匿ってるってバレるわけにゃ、いかねぇしな』
長曾我部はそう言うと着ているベストの裾に手をいれ、路地裏に入った。伊達は長曾我部から5メートルほど離れてついていった。
路地裏は一本道で、しばらく進むとT字路に突き当たった。
『おやおや、こんな所に来るとは奇特な方ですね』
『!!』
T字路の少し手前まで長曾我部が近づいた時、長曾我部に話し掛けた者がいた。
やや高いが男の声。T字路の先、長曾我部から見て右手。
『…アンタこそ奇特な野郎だな』
『フフフ…そうですねぇ』
『吉継に何しやがった』
長曾我部は単刀直入にそう言った。T字路の男は僅かに驚いたような気配を見せた。
『おや…貴方は刑部さんのお仲間でしたか』
『刑部…?!誰だそりゃ!吉継の事か!』
『どうりで聞き覚えのある声だと思いました。貴方、長曾我部元親ですね?』
『なっ……』
長曾我部は思わず驚きに声を上げてしまい、ちっ、と舌打ちするとベストの中から警棒のようなものを抜き取った。
『出てきやがれ!』
『これは困りました…今あまり他人に構っている暇はないのですがね』
男はそう言いながらも、T字路の出口に姿を見せた。伊達は咄嗟に路地に詰まれていたゴミの影に隠れる。
『!吉継ッ!!』
『…!』
大谷は男に姫抱きに抱え上げられていた。意識はないのか目は閉じられ、長曾我部の言葉に反応しない。
長い銀髪を揺らしながら、男は鉄仮面で見えない口から笑い声を漏らした。
『彼は元々こちらのものなので、返していただきますね』
『っざけんな!誰だテメェはッ!!』
『すいませんが、名乗る事の出来る名前は持っていませんので』
男は飄々とした口振りでそう言った。