2012-3-29 13:32
「何故だ!」
「孫一!」
勢いよく石田に掴みかかった雑賀を、前田は慌てて止める。
怒りの色を浮かべる雑賀の目を、石田はじ、と見た。
「……元々こちらの物だから返してもらう。奴等はそう言っていたそうだ」
「奴等の物…?!」
「石田を責めんな、姉ちゃん」
その時、運転席から長曽我部が声を掛けた。鉄格子の嵌まっている、運転席と荷台との間にある窓を雑賀は見る。
「……俺はアイツが連れてかれる時その場にいた、でも助けられなかった。責めんなら俺を責めな」
「!……」
雑賀は長曽我部の言葉にはっとした様子を浮かべると、気まずそうに俯いた。
「……すまない、つい取り乱して…………」
「謝りなさんな。…それよりよ」
「?」
「さっき吉継はアンタの命の恩人みてぇな事言ってたが、ありゃどういうこった?」
「!それは…………」
雑賀は言葉を濁す。石田が前田を見ると、前田は肩を竦めた。
す、と目を細めて窓の方を見る。
「…大谷警部と闡喪組、なんで因縁あるかは知ってる?」
「!いや…アイツから話すのを待とう、って事にしてるから俺は知らねぇ。多分知ってんのは社長と孝高だけだ」
「大谷警部は課長でね。大谷警部と俺と孫一、それから後数人で闡喪組に潜入捜査したんだ」
「!!」
「……新宿のバーにあった、って奴か?」
「そ。でも、バレたんだ」
「!」
「で、でもアイツ何も出なかったって言ってたぞ?!」
運転席の長曽我部の顔は見えないが、声色には僅かな焦りが見えた。
前田は黙って首を横に振る。
「………何も出なかったんじゃない。あげる前に見つかっちまったんだ」
「…大谷警部と私は逃げ遅れて……大谷警部が…」
「…命の恩人ってそういうことか。アンタを逃がそうとして、アイツは捕まったんだな?」
「…………そうだ」
声を絞り出すようにして雑賀は答えた。前田は黙って雑賀を抱き寄せる。
運転席の長曽我部がため息を吐いた気配がした。
「……ったく、自己犠牲の傾向はそん時からかよ。つくづくアイツらしいぜ」
「……なぁ長曽我部さん」
「元親でいいぜ」
「そっか。じゃあ元親、大谷警部はいつからアンタ達の警備会社に?」
「…そうだな……三年ちょい前からだな」
「…ってことは、その前の二年間はずっと…」
「何されたかは知らねぇけど、ろくな目にはあってねぇだろうな。現に、何あったか知ってる孝高は今回の事反対してたしな」
「!」
「…そういえば、もめていたな」
食堂での騒動を思い出した石田はそう呟く。前田は困ったように眉尻を下げて笑った。
「よかった」
「?何がでぃ」
「話聞く限り、大谷警部、偽大谷警部ほど変わってないみたいだから」
「……そうかい。ま、とにもかくにも、だ。闡喪組のボスと会えるのが五日後なんだけどな」
「え、ボスが分かってるのかい?!」
長曽我部がふらりと振った言葉に、前田と雑賀は驚愕の表情を石田に向けた。どうやら警察ではまだ分かっていなかったようだ。
「吉継がさらわれたのが昨日でな。それ取り返しに追っかけたらいた」
「ちょ、さ、さらっと言ってるけど地味に凄い事してるねぇ!」
「あー、確かに昨日は凄かったなぁ。そこで相手方に裏切りは出るわボスの兄弟は芸能プロダクションの社長だわそこの俳優も相手方だったけど寝返るわ」
「何それ凄い!」
「協力してくれている私の生徒の、生き別れた姉だったらしくてな。俳優もその人も、半ば脅されて参加していたんだ」
「生き別れ?」
石田の言葉に前田は石田を振り返り、はっとしたようにぽんと手を叩いた。
「もしかして、片倉さん?」
「知っているのか?」
「潜入してたときちょっとね。そっかぁ…」
前田は何度か頷いて、ふぅん、と呟いた。