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貴方も私も人じゃない47

引き金を引いて、フリントを取り付けた撃鉄が作動、火薬を入れた火皿の蓋のような物に当たるフリズンの当たり金にフリントに擦れて火花が起きる。それなら少し遅れてフリズンから溢れるように火花が起きた。そうしてようやく、弾丸が発射されたのが感覚で分かった。火皿から爆発が漏れるとは思わず、とっさに目を閉じてしまったのだ。
「…………」
鎮流は僅かに痺れる腕にぽかんとしたように手元を見下ろした。半兵衛は満足したように木の方をみた。
「うん、火縄より発射が遅いのが気になるけど、威力はまぁまぁだね。後は火薬を装填した後にそこに入れておいても大丈夫なように収納容器の形を変えさせようか」
「…あの……半兵衛様…」
「ん?なんだい?」

「撃ったの、人間ですか」

半兵衛は鎮流の言葉に、僅かに意外そうに鎮流の顔を覗きこんだ。鎮流も半兵衛の顔を見上げる。
「気付いたの?」
「…引き金を引いた時に、ちらりと見えました」
「そう。どこの草か知らないけど、覗きは良くないよねぇ」
「草…?」
「ああ、忍の事だよ。…震えてるけど、大丈夫かい?」
「ッ、」
半兵衛はどこか楽しそうにそう言った後、鎮流の右手を握ったままだった右手の人差し指で、とんとんと鎮流の右手を叩いた。びくり、と鎮流の肩が跳ねる。
「…大丈夫です」
「ごめんね。あそこにいた草、君の事狙っていたようだったし」
「!そこまで気付いて…」
「それに、君に早いところ慣れてもらいたかったからね。ちょっと乱暴だったね、それは謝るよ」
「…いえ、そのようなことは…。お言葉ありがとうございます」
「そう?よかった」
半兵衛はにこ、と笑うと鎮流から手を離した。鎮流は半兵衛の指摘したのとは違う、撃った反動でも僅かに震える腕をぶる、と二三度振った。
拳銃の火皿からは、まだ僅かに煙が上がっている。
「しばらくはそれで勘弁してね。ちょっと不便すぎるからね。いいものがないか探しておくよ」
「あ、ありがとうございます…私のために、申し訳ありません…」
「もう、気にすることはないよ。まぁ、射撃の練習は適当にやっておいてよ。使わなきゃならないような状況にならない策を作るのが一番だけどね」
「…!はい!」
半兵衛の言葉に鎮流ははっとしたような顔して、力強くそう返答した。

戦力としてあまり期待できないならば、別の手を。即座にそう結びつかなかった事に僅かに悔しさを感じながらも、次からはそう結びつけよう、鎮流はそう胸の内で呟いた。

半兵衛はそんな鎮流に面白そうに笑う。
「ふふっ、いいお返事だ。…さぁ、そろそろ行こうか。そんな事をしている間に、ほら。城から火が出てる」
「!」
半兵衛の言葉に敵城の方をみれば、確かに煙が上がっている。半兵衛は、ぱん!と手を叩いた。
「これで終わりだ」
そう言う半兵衛の横顔に、鎮流は僅かに見蕩れながらも、城の方へ視線を戻した。

貴方も私も人じゃない46

「…半兵衛様」
「済んだかい?」
鎮流に声をかけられ半兵衛が陣に戻れば、装備を終えた鎮流がいた。鎮流は片方のホルスターに拳銃をいれ、もう片方の拳銃を手に持って眺めていた。
鎮流の衣装は、半兵衛の言う通り今までとあまり変わりなかった。腕には半兵衛のそれと似たような防具をつけている。
大きく変わったところといえば、スカートだ。前面に切れ込みが入ってその間はレースのような形になっており、今までのものより横に広がりやすくなり、動きやすくなっているのだろう。また、スカートの両サイドには防具なのだろう、鉄板のようなものがついていた。
「どうだい?採寸は大丈夫そうだね」
「はい、問題ありません。多少下が重くなった程度でしょうか」
「動きにくくないかい?」
「以前のものより動きやすいくらいです」
「よかった。それは…使い方は分かるかい?」
「いえ、それは…」
鎮流はそう言って申し訳なさそうに拳銃をじろじろと見まわした。半兵衛はふふ、と小さく笑って鎮流の後ろに立った。
「いいかい」
「っ、はい」
半兵衛はそのまま後ろから鎮流の手を取った。 身長差はさしてないとはいえ体格差はそれなりにある為、存外鎮流は半兵衛の腕の間にすっぽり入った。
「これはまず、銃口から装薬と弾丸を詰める。ここは火縄と同じ原理だ」
「はい」
「この時、ここの撃鉄。これをこの程度上げておくと安全装置になる。まぁ、引き金が引けないってだけだけどね。それから火薬を入れて…」
「…連射は出来そうにないですね」
「生憎まだそこまで便利なものはないねぇ。これは君でもすぐ扱えそうな、特別小さいのを持ってきたんだ。雑賀衆辺りならもう少しいいのがあるのかもしれないけど…彼らが譲ってくれるとも思えないしね」
「雑賀衆…」
「話を戻すよ。それで撃鉄を最後まで起こす。これで準備は終わり、後は狙いを定めて引き金を引くだけ…。試しに一発撃ってみようか」
「え?こ、ここででございますか?」
半兵衛の言葉に鎮流はわずかに驚いたように半兵衛を見る。半兵衛は鎮流の反応に楽しそうに笑う。そして、左手の人差し指を鎮流の唇に当てた。
「…狙いは僕が決めよう。行くよ」
「は、はっ!」
半兵衛はそう言うと右手を拳銃に添えたまま、ぐ、と左手で鎮流の腰を抱えるように持ち、まるで踊るかのような動きでぐるりと回った。
鎮流は半兵衛の行動が理解できず混乱していたが、半兵衛は気にもとめずに拳銃の銃口を陣の上から覗く木に向けた。
「引いて」
半兵衛の言葉に鎮流は疑問を感じる前に体を動かした。
言われるままに引き金を引いた。

貴方も私も人じゃない45

「…ふふっ。怖いかい?」
「っ、………」
「怖いならば、まだ君もその程度だということだね。何を恐れることがあるんだい?強くなれば生きられる、それだけのことだろう?」
「…それは…そうで、ございますが」
「が?」
半兵衛は楽しそうに先を促す。鎮流はわずかに眉間を寄せた。
「…意地の悪いことを仰います」
「だってそうだろう?強くなろうとしない者なんて秀吉の世界には必要ないんだ」
「…」
「…っと、君の誤解のないように一応伝えておこうか。僕が言いたいのは、向上心のない人間なんていらないってことだよ」
「!」
鎮流は半兵衛が付け足すように言った言葉にはっとしたように半兵衛を見た。半兵衛はそんな鎮流の反応に、くすくすと楽しそうに笑う。
鎮流は半兵衛の本意に気が付かなかったことに恥ずかしさを感じ、かぁ、と僅かに頬を赤らめた。
「…も、申し訳ありません……」
「ははっ、構わないよ。何でもかんでも分かる訳じゃあないんだもんね」
「………もしかして、こういう言い方は失礼ではあるのですが、石田様があれだけの地位にいるのは…」
「うん?三成君かい?三成君は他の誰よりも秀吉に忠誠を誓っているし、それを誰よりも示してくれている。そして何より、秀吉の為にと鍛練を惜しまない」
「………」
「確かに三成君はあまり人間的にはいい人とは言えないかもね。でも、どれだけ三成君より人間が良くても、口先ばかりの子や鍛練を怠るような人間では三成君の足元にも及ばないさ」
「……成程」
半兵衛はぱん、と手を叩いた。この話は終わりだ、そう言わんばかりに。
「さて、鎮流君。あの戦はもう終わりも当然だ、ところで君に渡す物がある」
「はい。なんでございましょう」
半兵衛の手を叩く音が合図だったのか、少し大きめの箱を持った兵士が陣に入ってきて、箱を半兵衛に手渡すと早々に出ていった。半兵衛はその箱をそのまま鎮流に差し出す。
「はい」
「…?頂戴いたします」
鎮流は両手でそれを受け取ると、静かに箱を開けた。

箱の中には下の方に洋服のようなもの、そのうえに置かれた紺地のホルダー、そして。
シンプルだが銀で装飾された、黒い拳銃が二丁、入っていた。

鎮流は驚いたようにそれを見たあと、納得する節があったか、何度か小さく頷いた。
「…私の装備、でございましょうか」
「そう。君が袴とか履きなれてるか分からなかったから、一応衣装の方は今の君が着ているものに似せてみたよ。少しの間この陣から僕は出ているから、装備してみてくれるかい?」
「承知いたしました。ありがたく頂戴いたします」
鎮流はそう言うと机の上に箱を置き、着替えるべく中の衣装を取り出した。

貴方も私も人じゃない44

翌日。
鎮流は昨日と変わらず半兵衛と共に陣にいて戦の動向を見ていた。時折報告される戦の様子に、鎮流は手帳に何やら書き込んでいた。
半兵衛はふ、と思い出したように鎮流を振り返った。
「昨日、夜三成君が来てね。君の話をしていたよ」
「!左様でございますか」
「おや、内容に興味はないのかい?」
「……大体の予想はつきますので」
「ふふっ、なるほど?なら言わなくてもいいか。鎮流君」
「はい」
「僕は君の掌で転がせるような、丸くて小さい可愛らしい形はしていないんだ。ま、君程度の子にそもそも捕まりもしないけどね」
半兵衛はそういうと、ふふ、と楽しそうに笑った。鎮流はそんな半兵衛に諦めたような笑みを浮かべた。

半兵衛が利用できるようならば利用するつもりはあった。だが実際についてみれば、半兵衛は利用できるできないのレベルではない、利用するなどという事が通じる程度の人間ではないことが分かった。
少しでも利用しよう、道具にしてやろう、そんな思いで接すればすぐに彼は何も見せなくなる。そのような思惑を抱える程度の人間は、彼にとって何も価値がないからだ。下手をうてば、殺されても不思議ではない。
その事は、昨日一日で痛いほど感じていた。

「ええ、今の私では貴方様に敵わない事は理解しております。…たとえ私が邪な想いを持ったとて、私自身が気付かぬうちに滅ぼされるであろうと思ってもおりますので」
「お世辞としても嬉しく受け取っておくよ。三成君はどうにも君に不信感を抱いているようだね、まぁ無理もないとも思うけど」
「…、竹中様」
「半兵衛でいいよ。豊臣の者は大抵そう呼ぶからね」
「では、半兵衛様。半兵衛様にも、私は全て隠しているようにお見えになりますか」
半兵衛は鎮流の言葉に笑顔を浮かべたまま、肩をすくめるような動作をした。そして、小さく首を横に振る。
「別にそうは思わないさ。ただ、君は無難に無難に生きている、それだけのことだよ」
「………」
「別にいいんじゃないのかい?それはそれで。三成君だって決して褒められるような生き方じゃあない。彼は彼で、不器用な生き方をしているよ」
「石田様が…」
半兵衛は小さく呟いた鎮流にまた肩をすくめ、視線を戦場の方に戻した。
少しして、あ、と半兵衛が小さく声をあげた。
「…君の考えてたとおり、出てきたねぇ、森から」
「!」
昨日鎮流が指摘した通りに、敵兵が森から別動隊の横っぱらに出てきたのが遠目にも見えた。予め来るかもしれないことを知っている別動隊は、動揺することなくそれに対処していた。
「…、半兵衛様」
「なに?」
「…城の裏手、川に面したところ、あそこに抜け道を用意したのは何故ですか」
「おや、分からなかったかい?この程度の戦に時間をかけたくないからね、逃げ道を提示してあげただけさ。あんなところからでも逃げたとして、あの先はしばらく村もない、その先には山岳地帯、どうせ逃げても野垂れ死ぬ」
「…!」

「そんな弱い人間はこの日ノ本には必要ない」

半兵衛が最後に発した言葉に、ぞわり、と鎮流は鳥肌が立ち、背中を冷たい水が流れるような感触を味わった。

貴方も私も人じゃない43

「…………お嬢様」
三成が去って少しして、そんな声がした。がさ、と音がして、近くの木陰から、立ち聞きしていたらしい、鎮流と源三が姿を見せた。
源三はちらり、と鎮流を振り返った。鎮流はゆったりと腕を組み、ふふん、と小さく笑う。どこかその表情は楽しそうだ。
「…あの人、疎そうに見えて案外鋭いじゃない。彼、大将には全くもって向かないけれど部下にいるととても重宝するタイプだわ」
「…と、おっしゃいますと」
「客観的な事実しか述べていない、それはある意味当たりということよ。…下手に自分の感想を述べるより無難だし、間違いは言っていない、私の常套。まさか、竹中半兵衛ではなく、彼に見抜かれるとは思っていなかったけれど」
「………恐らく過去に、相当の被害を受けたものかと」
「そうね。いわれのない差別を受けた人間ほど、自分でも気がつかないうちに他人に敏感になっていく…このご時世じゃ鬼の類と思われても仕方のない外見ですものね、彼」
鎮流は組んでいた腕をとき、たん、と軽やかに乗っていた木の根から降りた。源三は歩き出した鎮流の数歩後ろを歩く。
「…どうするおつもりでございますか」
「どうする?どうもしないわ、どうする権利も私にはないもの。ただ…警戒する対象が増えた、ただそれだけの話よ」
鎮流はただ静かにそう言ってのけた。源三は鎮流の言葉に眉間を寄せた。
「…、鎮流お嬢様、恐れながら」
「なぁに?」
「お嬢様、お嬢様のそうした態度は……」
「別にバレようがどうでもいいわ。それを忌避するか否か…そのあたりも別にどうでもいい事なのよ。その程度は障害にならない」
「そうとは言えませぬ、」
「それは先人の知恵と言いたいのかしら?貴方から見た私がそうだと」
「!!い、いえそういうわけではっ…」
源三は楽しそうにそう言って振り返った鎮流に、びくりと肩をはねさせ慌てたように否定した。鎮流はそんな源三に何かを含んだような笑みを浮かべ、視線を前に戻した。
ふふっ、と小さく笑い声をあげて肩を震わせた。
「ま、一般的に嫌われやすいことは重々承知よ。だけど、豊臣ではそれが障害にはならない。別にそれを言い訳にしているわけではないけど、お人好しは必要ないでしょう?」
「……お嬢様は、それでよろしいのですか」
「私はもともとお人好しではないわ。私に害をなすもの、私の道を邪魔するもの、それがなんであろうと私は全力を持ってこれを排除する。…それが私のポリシーよ。貴方が一番、それは身を持って知っているかと思っていたわ」
「……、否定はしません」
源三はそう言うと目を細め、小さく頭を下げた。鎮流は源三の言葉にまた小さく笑い声をあげた。
そしてーーー不意に笑顔を消し、冷めた目で源三を静かに見据えたのだった。
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