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貴方も私も人じゃない26

「やぁ、鎮流殿」
ほとんどの将が陣を出ていき、最後の方にやってきた家康はにっこり笑って鎮流に手を振った。鎮流は礼ではなく会釈を返す。
「はい、今朝方ぶりです家康様」
「ほぅ、主は徳川と知り合いであったか」
「拾ってきたのが家康君だからね」
家康との話しぶりを見て吉継はわずかに驚いたようにそう言った。三成と共に机上の物を片付けていた半兵衛は吉継の言葉にそう返す。
鎮流は吉継に向き直った。
「先程は失礼いたしました、大谷様」
「ヒヒッ、よいよい慣れたものよ。まァ流石は賢人殿が弟子に選ぶ者、気味悪くはないのかァ?」
「……理由も知らず嫌悪することはしないようにしておりますので」
「ヒッヒ、無難な答えを返しやる」
「…!」
「刑部、そんな言い方はないだろう」
吉継の言葉に鎮流はぴくり、と指を跳ねさせた。家康は困ったようにため息をつき、顔をしかめてそう言う。吉継はそれにもヒッヒとひきつった笑い声をあげるだけだった。

どうせお前もこの醜い身体を嫌悪しているのだろう?惨めな嘘をつくな、分かりきったことだ。

笑い声はそう言っているようで、鎮流は些か癪に障った。
確かに気持ち悪くないのかと言われれば気持ちの悪い容姿だ。だが、所詮はその程度なのだ。どちらかと言えば、の話であるだけの程度なのだ。

忌避すべきはメンタルの低さ。外見のレベルの低さではない。外見がどうこうではなく、それをどうこういうレベルの人間が問題なのだ。

そうした程度の低さこそが、鎮流が嫌うものなのだ。
自身が嫌う人間と同様に見られたままでいるのは、鎮流のちっぽけながらも持ち得るプライドが許さなかった。
「…では、はっきり申し上げさせていただきます。その程度では気味悪くなどありませぬ」
「!ほぅ。我が病であってもか?」
「病ならば尚の事でございます、不可抗力の事でございますから」
「鎮流殿……」
家康は僅かに驚いたように鎮流を見たあと、どこかほっとしたように笑った。吉継は鎮流の言葉に目を細めた。
「ヒヒッ、よう言いよるわ。まァ嘘であれ真であれ、それだけ顔に出さぬのならば確かに軍師に向いておるかもしれませぬな」
「ふふ、でしょ?」
「刑部、いつまで戯れている!半兵衛様のご判断が間違いであるはずがない!」
「ヒッヒ、そうさな。ではこれで失礼しやる、朗報を待ちやれ賢人殿」
吉継は三成の言葉に楽しそうに目を細め、ふよふよと陣から出ていった。
家康はそれを見送ったあと、薄く笑いながら鎮流を見た。
「流石だな、鎮流殿」
「流石もなにも、本当の事です」
「ふふ、分かっているさ。そうだ半兵衛殿、次の戦は彼女は…?」
「彼女は僕のそばで戦を見ていてもらう。心配には及ばないよ」
「…あぁ、そうだな」
家康は半兵衛の言葉にどこか安心したような様子を見せたが、言葉ぶりは少しばかり寂しげだった。
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