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貴方も私も人じゃない34

半兵衛はそんな鎮流に、くすくす、と小さく笑った。
「こういった場合、確証を得てからの行動なんて、遅すぎる場合の方が多いよ」
「!」
「それに、この程度ならついでの警戒で十分だ。なら、今までの作戦に大して影響も与えない」
「…確かに」
半兵衛は納得した様子を見せる鎮流ににこりと笑ってみせ、背を向けた。陣幕をばさりとあげ、敵方の方を見つめる。
「慎重さは大事なことだけど、慎重なだけだとろくに動けやしない。時には大胆さも必要だよ。君はやはり女性だからか、僕よりかは慎重なようだね?」
「…これほどまでに大きな組織を動かすというのは経験したことがないので…」
「ふふ、それもそうだね。難しいとは思うけれど、早く慣れてくれたまえ」
「はい」
「いい子だ。こっちへおいで、ここからなら戦運びがよく見える」
鎮流は半兵衛の言葉に開いていた手帳を一旦閉じ、半兵衛の斜め後ろにたった。どうやら先鋒隊の方では戦闘が始まったらしい、僅かなざわめきで音が聞こえてきた。
風に乗ってきた火薬と血生臭い臭いに、鎮流は僅かに眉間を寄せて拳で鼻を隠した。
「…そういえば、君戦場に来たことは?」
「ありません。…あぁでも、死体なら一度だけ」
「臭うかい?」
「…少しだけ」
ふふっ、と半兵衛は鎮流を振り返って笑った。今日の半兵衛はよく笑う。なにやら機嫌がいいようだ。
「今日は後ろにいるからこの程度だけど、現場はもっと臭うだろうね。まぁ、無理に慣れろとは言わないよ、軍医のくせに未だに吐く子もいるからね」
「そうなのですか…。多分、数回で慣れるとは思います」
「…そうだ、君のいたところの話を少ししてくれないかい?君の言う通り豊臣は大きな軍だから、早々これだけ人手がなくなることもないからね」
ふ、と半兵衛は思い出したようにそう告げた。鎮流は僅かに意外そうに半兵衛を見たが、半兵衛からしてみれば鎮流が得体の知れない人間であることには変わりはない、その事を思いだし、小さくうなずいた。
「…どんな話をいたしましょうか」
「うーん…例えば、勢力構造、とか」
「勢力…といいましても、私のいた所では、少なくとも日ノ本では戦はありませんでしたので…」
「へぇ?戦乱の世ではなかったのかい?」
戦がない、という鎮流に、彼には珍しく半兵衛は驚いたように目を見開いた。
戦乱の世に生きていれば、戦がない世というのは想像しにくいか、夢物語のような世界なのだろう。
鎮流は僅かに困ったように眉尻を下げた。とてもではないが、半兵衛に自慢できるような世界ではない……鎮流はそう感じていた。
「一応、日ノ本を治める組織というものがありまして、かつ、その組織は2つに別れていてどちらか片方による独裁を防ぐ、という役回りをとっています」
「…独裁ではないのかい?」
「一応は。結局、その2つの組織は互いに足を引っ張りあっているようにしか、見えませんでしたが」
鎮流はそう言って肩をすくめた。
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