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貴方も私も人じゃない38

「今日はどうでしたか?」
「うん?んー、特に問題なく進んだよ。意外と堅くて落とすことはできなかったけどな」
「別動隊がほとんど動きませんでしたからね…しかし、順調な方でしょうか」
「ああ、順調な方だ。こちらの被害も少ない。二三日の間には決着が着くだろう」
そう言う家康の表情は、言葉のわりには浮かない顔だった。鎮流は僅かに首をかしげる。何故順調だというのに、こうも浮かない顔なのか。
ー君の言うことは、あらかた的を射ているがどれも一般論なんだ
不意に半兵衛の言葉が思い出された。恐らく鎮流が考えたところで思い付くはずもないだろう。
鎮流はにこ、と笑ってみせた。
「浮かない顔ですね、家康様」
「んっ?え、そうか?」
「えぇ。何か、気にかかることでも?」
「…はは、困ったな…。……あなたならいいか」
「?」
「この事は半兵衛殿や三成には黙っていてくれないか?特に三成は、ぷんぷんするだろうから」
「……分かりました、お約束しましょう」
内緒にしてくれ、という家康に、あまりよい予感はしなかったが、鎮流の理解を越える家康を理解したいと思っているのも事実だったので、そこには目をつぶることにした。
家康はありがとう、と言って薄く笑った。
「…気持ちのいい、戦ではなかったんだ」
「き…気持ちのいい……?」
「はは…女性のあなたにそれを理解しろと言うのは酷な話だな。ただ、そうだな…後味の悪くなる戦だった、といえばいいかな」
「…何故?」
「前には逃げ惑う敵、後ろには力で蹂躙する味方…あんなのは戦じゃあない」
家康はそういって眉間を寄せ、僅かにうつむいた。鎮流は僅かに驚いたように目を見開いた。
「…意外でした」
「え?」
「貴方は、一応一軍の大将でしょう。なら、味方の損失が少なかったことを喜ぶのが普通かと思っていました」
「…確かに、それはそうなんだが…あんなのはただの嬲り殺しでしかない」
「……嬲り殺し、でございますか。まだ見慣れぬ私には、全て同じに見えますが…」
「!」
家康は鎮流の言葉にはっとしたように顔をあげた。鎮流はそうした家康の様子には気が付かなかったらしい、指を口元に添え、僅かに考え込むように眉間を寄せた。
「…戦に意義を見いだしたい、というお気持ちは想像出来なくはありませんが……」
「…、あなたは、今回の戦をどう見ているんだ?もしあなたが、相手の立場だったら」
「もし私が向こうの城の人間ならば、城主に降伏を勧めます」
「!」
「滅びぬことが、頂に立つものの務めだと私は思います」
家康は鎮流の言葉に、薄く笑った。
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