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貴方も私も人じゃない44

翌日。
鎮流は昨日と変わらず半兵衛と共に陣にいて戦の動向を見ていた。時折報告される戦の様子に、鎮流は手帳に何やら書き込んでいた。
半兵衛はふ、と思い出したように鎮流を振り返った。
「昨日、夜三成君が来てね。君の話をしていたよ」
「!左様でございますか」
「おや、内容に興味はないのかい?」
「……大体の予想はつきますので」
「ふふっ、なるほど?なら言わなくてもいいか。鎮流君」
「はい」
「僕は君の掌で転がせるような、丸くて小さい可愛らしい形はしていないんだ。ま、君程度の子にそもそも捕まりもしないけどね」
半兵衛はそういうと、ふふ、と楽しそうに笑った。鎮流はそんな半兵衛に諦めたような笑みを浮かべた。

半兵衛が利用できるようならば利用するつもりはあった。だが実際についてみれば、半兵衛は利用できるできないのレベルではない、利用するなどという事が通じる程度の人間ではないことが分かった。
少しでも利用しよう、道具にしてやろう、そんな思いで接すればすぐに彼は何も見せなくなる。そのような思惑を抱える程度の人間は、彼にとって何も価値がないからだ。下手をうてば、殺されても不思議ではない。
その事は、昨日一日で痛いほど感じていた。

「ええ、今の私では貴方様に敵わない事は理解しております。…たとえ私が邪な想いを持ったとて、私自身が気付かぬうちに滅ぼされるであろうと思ってもおりますので」
「お世辞としても嬉しく受け取っておくよ。三成君はどうにも君に不信感を抱いているようだね、まぁ無理もないとも思うけど」
「…、竹中様」
「半兵衛でいいよ。豊臣の者は大抵そう呼ぶからね」
「では、半兵衛様。半兵衛様にも、私は全て隠しているようにお見えになりますか」
半兵衛は鎮流の言葉に笑顔を浮かべたまま、肩をすくめるような動作をした。そして、小さく首を横に振る。
「別にそうは思わないさ。ただ、君は無難に無難に生きている、それだけのことだよ」
「………」
「別にいいんじゃないのかい?それはそれで。三成君だって決して褒められるような生き方じゃあない。彼は彼で、不器用な生き方をしているよ」
「石田様が…」
半兵衛は小さく呟いた鎮流にまた肩をすくめ、視線を戦場の方に戻した。
少しして、あ、と半兵衛が小さく声をあげた。
「…君の考えてたとおり、出てきたねぇ、森から」
「!」
昨日鎮流が指摘した通りに、敵兵が森から別動隊の横っぱらに出てきたのが遠目にも見えた。予め来るかもしれないことを知っている別動隊は、動揺することなくそれに対処していた。
「…、半兵衛様」
「なに?」
「…城の裏手、川に面したところ、あそこに抜け道を用意したのは何故ですか」
「おや、分からなかったかい?この程度の戦に時間をかけたくないからね、逃げ道を提示してあげただけさ。あんなところからでも逃げたとして、あの先はしばらく村もない、その先には山岳地帯、どうせ逃げても野垂れ死ぬ」
「…!」

「そんな弱い人間はこの日ノ本には必要ない」

半兵衛が最後に発した言葉に、ぞわり、と鎮流は鳥肌が立ち、背中を冷たい水が流れるような感触を味わった。
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