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貴方も私も人じゃない33

翌日。
豊臣軍は作戦行動を開始した。鎮流は半兵衛と共に後衛にいた。
半兵衛は僅かに高いところに設置された陣から、戦場となるであろう方を見やった。
「さぁ、戦が始まるよ。昨日の軍議で僕が話したこと、覚えてるかい?」
「はい。まずは家康様と石田様のお二方が先陣を切り、相手中央に切り込む。逃げ出した敵兵は、外回りに裏手へ回った別動隊が叩く…」
「そう、大まかな動きはそれだね。…、昨日は地図に色々記録していたようだけど、持ち物を見る限り…暗記でもしてきたのかい?」
鎮流は小さな手帳だけ持ってきていた。小さいとはいえ手帳には地図が書き写してあり、策略も別ページにすべて書き写されていた。
鎮流は手帳に目を落とした。
「…いちいち見て確認している暇はないかと思いまして…昨晩、まとめてきました」
「君はこの策をどう思う?」
「…ほとんど抜けている所はないかと」
「ほとんど、か。どこが抜けていると思うんだい?」
「えっ?あ、いえ、言葉のあやです」
「そうかい?まぁいいさ、でもその顔、気になっていることもあるんだろう?言ってごらんよ」
「…では、この森」
鎮流は陣に置いてある地図の、森を指差した。
「竹中様は迂回するように、と仰いましたが、昨日森の方を見ると夜でも僅かに明るく見えました。昨日は満月。本来なら、木々で遮られて普通の平地よりも暗く見えるはず、ですがそうした様子はありませんでした」
「へぇ、そうなのかい?……なるほど、森に手を出していたのか。それで?」
先を促す半兵衛に鎮流は小さく頷いた。

ーさすが、ここで終わるわけがないか。この人の揺るぎなさ…どこから来ているのか

鎮流は小さく笑んだ。
「おそらく、抜け道の類いを作ったのでしょう。向こうの城の作りを見ると、森に隣接している城壁があります」
「それが?」
「竹中様が昨日指示された迂回路は森の影になり弓や鉄砲では狙いにくい位置と予想されますが、動き自体は筒抜けです」
「…つまり、見つけた敵方が先んじて城を出て、横から来る、と?」
「…その可能性はあるのではないか、と」
「…なるほどね」
半兵衛は鎮流の言葉に薄く笑み、ゆったりと腕を組んで指を顎に添えた。そうしてしばらく考え込んだあと、ふっ、と息を吐き出し、組んでいた腕を解いた。
「別動隊はまだ出てはいない。知らせておく価値はあるかもね」
「!」
「なかなか面白かったよ、森のことまで気がついていなかった。君の視点はなかなか斬新だ」
「…ありがとうございます」
「あまり嬉しくなさそうだね?」
「あ、いえ…その、確証を得てはいない話だったので…」
そう予想したとはいえ、事実本当に道があるかどうかは確認できていない、つまりは証拠はない。
そのため鎮流はあまり自信を持てずにそう告げた。
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