2011-11-16 17:32
「…村越殿、申し訳ござらんが、その…」
「…ちょっと野暮用出来たので行ってきます」
「!!も、申し訳ござらん」
村越はそう言って真田と宮野の傍から離れた。そして、天君の所へ向かった。きっとそこは静かだろう、と。
「…………あっ」
「!…村越?」
だが先客がいた。石田は驚いたように村越を振り返り、気まずげに僅かに目を逸らした。
村越は逃げ出したい気持ちに駆られた、が。
「三成さん!なんでち、ちゅーしたこと黎凪に言っちゃったんですか?!」
気が付いたら、そう叫んでいた。
叫ばれた石田はぽかん、と村越を見たが、すぐにまた目を逸らした。心なしか顔は赤い。
「ううう嘘をつくのは裏切りだ!」
「だからといって、誤魔化す手だってあったでしょ?!」
「誤魔化したらその後貴様が問い詰められたぞ!」
「!う…確かに…」
「……。貴様、大丈夫か」
「え?…ッ」
ぎゃーと一通り言い終わった後、ふ、と気が付くと石田は村越の傍に来ていてその頬に触れていた。
咄嗟に離れようとするが、その動きを読んでいたのか石田はがしりと村越の腕を掴んだ。
「逃げるな!」
「…ッ」
「…嫁に聞いたぞ。愛される事を恐れていると」
「……ッ!」
村越は石田の言葉に俯いた。石田は村越の様子に僅かに目を伏せた。
そしてしばらく考え込んだのち、ぱちり、と目を開いた。
「村越。………私は…家康が許せない、だが!…」
石田はそこで言葉を切り、僅かに息を吸い込んだ。
「……私は、奴の罪を。許すことにする」
「…?!」
「この先いつまでも家康は許しはしない!…だが、奴を仇として…追うことはやめる」
「ど…どうして…?」
「…貴様の言葉がきっかけだった」
「え…」
「秀吉様は、真に私が仇として家康を討つことを望まれるか…考えた」
「!」
石田は言葉を区切り、ぐ、と拳を作った。
まだ決心しきれていないのだろう。目には迷いの色が見える。
「…秀吉様は最も力を尊ぶ。…認めたくはないが…秀吉様は、家康に、……その力で負けた………」
「…三成さん……」
「…ならば、秀吉様は…後悔など、されていないはず…そう思った。後悔していない死ならば…悔やむことも家康を恨むことも、…秀吉様はなされないだろう……」
「………はい…」
「…そうならば。私がすべきは、秀吉様の仇を取る事ではなく……秀吉様の目指された夢を達成する事だ」
「!」
「………貴様はどう思う。村越…」
石田はそう言って村越の目を見た。揺れ動く石田の瞳に、村越は一瞬口を噤んだ。
村越の返答次第で、石田の心は決まる。
―――三成さんを死なせるつもりはない。でもそれが、三成さんを助ける事になるかは分からない
宮野の言葉が一瞬頭を過ったが、村越は心を決めた。
「…私は、三成さんがそう、決意されたなら、…それで、いいと思います。秀吉様もきっと、そう思うと思うから」
「…村越………」
「誰かの罪を許せるのは強いことだと、私も思います。……私は、何があっても、三成さんの味方です。誰かが否定しようとも…私は、三成さんは強いと、そう思います」
「…そうか……。…ッ」
「!」
石田は村越の腕を引いて己の腕の中に閉じ込めた。村越は僅かに体を固くさせたが、大人しくその中に収まった。
「…礼を言う」
「三成さん…」
「……。私の心は決まった。後は…家康次第だ」
「…はい」
石田は村越を放した。