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もうお前を離さない320

「…村越殿、申し訳ござらんが、その…」
「…ちょっと野暮用出来たので行ってきます」
「!!も、申し訳ござらん」
村越はそう言って真田と宮野の傍から離れた。そして、天君の所へ向かった。きっとそこは静かだろう、と。

 「…………あっ」
「!…村越?」
だが先客がいた。石田は驚いたように村越を振り返り、気まずげに僅かに目を逸らした。
村越は逃げ出したい気持ちに駆られた、が。
「三成さん!なんでち、ちゅーしたこと黎凪に言っちゃったんですか?!」
気が付いたら、そう叫んでいた。
叫ばれた石田はぽかん、と村越を見たが、すぐにまた目を逸らした。心なしか顔は赤い。
「ううう嘘をつくのは裏切りだ!」
「だからといって、誤魔化す手だってあったでしょ?!」
「誤魔化したらその後貴様が問い詰められたぞ!」
「!う…確かに…」
「……。貴様、大丈夫か」
「え?…ッ」
ぎゃーと一通り言い終わった後、ふ、と気が付くと石田は村越の傍に来ていてその頬に触れていた。
咄嗟に離れようとするが、その動きを読んでいたのか石田はがしりと村越の腕を掴んだ。
「逃げるな!」
「…ッ」
「…嫁に聞いたぞ。愛される事を恐れていると」
「……ッ!」
村越は石田の言葉に俯いた。石田は村越の様子に僅かに目を伏せた。
そしてしばらく考え込んだのち、ぱちり、と目を開いた。
「村越。………私は…家康が許せない、だが!…」
石田はそこで言葉を切り、僅かに息を吸い込んだ。

「……私は、奴の罪を。許すことにする」

「…?!」
「この先いつまでも家康は許しはしない!…だが、奴を仇として…追うことはやめる」
「ど…どうして…?」
「…貴様の言葉がきっかけだった」
「え…」
「秀吉様は、真に私が仇として家康を討つことを望まれるか…考えた」
「!」
石田は言葉を区切り、ぐ、と拳を作った。
まだ決心しきれていないのだろう。目には迷いの色が見える。
「…秀吉様は最も力を尊ぶ。…認めたくはないが…秀吉様は、家康に、……その力で負けた………」
「…三成さん……」
「…ならば、秀吉様は…後悔など、されていないはず…そう思った。後悔していない死ならば…悔やむことも家康を恨むことも、…秀吉様はなされないだろう……」
「………はい…」
「…そうならば。私がすべきは、秀吉様の仇を取る事ではなく……秀吉様の目指された夢を達成する事だ」
「!」
「………貴様はどう思う。村越…」
石田はそう言って村越の目を見た。揺れ動く石田の瞳に、村越は一瞬口を噤んだ。
村越の返答次第で、石田の心は決まる。
―――三成さんを死なせるつもりはない。でもそれが、三成さんを助ける事になるかは分からない
宮野の言葉が一瞬頭を過ったが、村越は心を決めた。
「…私は、三成さんがそう、決意されたなら、…それで、いいと思います。秀吉様もきっと、そう思うと思うから」
「…村越………」
「誰かの罪を許せるのは強いことだと、私も思います。……私は、何があっても、三成さんの味方です。誰かが否定しようとも…私は、三成さんは強いと、そう思います」
「…そうか……。…ッ」
「!」
石田は村越の腕を引いて己の腕の中に閉じ込めた。村越は僅かに体を固くさせたが、大人しくその中に収まった。
「…礼を言う」
「三成さん…」
「……。私の心は決まった。後は…家康次第だ」
「…はい」
石田は村越を放した。
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