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もうお前を離さない316

「真田」
「!三成殿?」
ぽかんとしていた石田だったが、すぐに我に返ると踵を返し武田軍陣営に向かった。
現れた石田に真田は僅かに驚いたようで、ことりと首を傾げた。
「如何なされた?」
「貴様の嫁に聞きたいことがある」
「れ、黎凪にでござるか?…しばしお待ちを!」
真田はそう言うと石田に背をむけ息を吸い込んだ。
そして叫んだ。
「れぇいぃなぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「…ッ」
あまりの大声に石田は思わず耳を塞いだ。
少しして、宮野が慌てたように走ってきた。
「はいはい誰か呼びましたー?」
何をしていたのか、手には出刃包丁を持っている。
出刃包丁は真田も知らなかったらしい、顔を僅かに引きつらせて数歩宮野から後退った。
「…黎凪、何故出刃包丁を…?」
「え、あぁこれ?薪が足りないらしくて、でも斧が無かったから切れ味の悪くなったコレ借りたの」
「…。切れるのか?」
「まぁ、叩きつけるだけだから。で、どうしたの?」
「三成殿が聞きたいことがあると」
「三成さんが?」
宮野の言葉にはっと石田は我に返り、小さく頷いた。その後、真田の方を向いた。
「…!では某はこれにて!」
真田は石田の言いたい事を察し、軽く頭を下げると2人から離れていった。
石田が真田の背を見送り、視線を宮野に戻した時。かぁん、という音が耳元で聞こえた。石田は眉間を寄せる。
「…貴様、何のつもりだ」
それは宮野が出刃包丁を石田の肩防具にぶつけた音だった。刃が下を向いているから、防具が無ければいくら切れ味が悪いとはいえ怪我していただろう。
宮野はどこか怒った様子で石田を睨み上げた。
「芽夷に何したんです」
「…!」
知っているとは思わなかった石田は思わず息を呑んだ。
「何があったかまでは知りませんよ。泣いて走ってくトコしか見てないんで」
「…ッ」
「芽夷は何かに怯えてた…。……三成さん、忠告しときますよ」
「忠告……?」
「芽夷になまじ中途半端な優しさを与えても逆効果です。芽夷は愛されるのを恐れてますから」
素っ気ないといえるほどあっさりとそう言った宮野に、石田は僅かに目を見開いた。
宮野がどうでもいいと思って素っ気なく言ったのではない事くらい簡単に分かる。だからこそ、何故そう言ったのかが気になった。
「…何故だ。それは奴の過去と関わりがあるのか?」
「…!知ってたんですか?」
宮野は意外そうにそう言った。静かに頷けば、宮野の表情は若干暗くなる。
「……関係あると思いますよ。私でさえ、最初はどう接すればいいか考えましたから」
「………………」
「そもそもなんでそんな事になったんです」
「!!!!そ…それはだな…」
「?」
「…耳を貸せ」
宮野は急にしどろもどろになった石田を不審げに見ながらも石田に近寄った。
そして耳打ちされた内容に勢い良く飛びずさった。ずびし!と勢い良く指を突き付ける。
「何やってんだアンタ!!」
「喧しいッ!!私とて分かっていない!」
「何だよ…三成さん芽夷の事好きなんですか?」
宮野の問いに石田はう、とつまり俯いた。宮野はしばらく石田の答えを待ったが、ないと分かると小さくため息をついた。
「…三成さん。別に接吻くらい私らの世界じゃ大した意味持ってませんよ」
「!??!」
ぷい、と宮野は石田から顔をそらし、横を向いた。
「…でも、三成さんがもし、責任云々じゃなく、芽夷を大事だと思うのなら……覚悟してください。芽夷の心に出来た傷は、あなたのそれと同じくらい深い。そして、他人には容易に癒せない」
「………………」
宮野の言葉を石田は黙って聞いた。
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