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もうお前を離さない319

「…でも……」
「お前、自分が疫病神みたいに思ってないか?」
「…思ってるけど…」
「私はそんな風には思わないぞ」
「…黎凪が言ったんじゃない。殺されるのは楽だって」
「………辛いか?」
「…………辛い…」
ぽつり、と答えた村越に、宮野はぽんぽん、と村越の頭を叩いた。わしゃわしゃと村越の頭を撫でる。村越はただそれを享受し、宮野は僅かに目を伏せた。
「……ごめんな芽夷…」
「…黎凪は悪くないよ」
「…でも私は忘れてほしい。もう、元の場所には帰れないんだから」
「………忘れても罪は消えない」
「そうだろうけどさ」
宮野は村越の頭から手を離すと、金網から焼けたおにぎりを取り上げ、竹籠の中に並べた。
「私は憎まないよ。絶対に」
「…ッ」
「それに。罪を憎んで人を憎まずとも言うだろ。どうしても憎んでほしいってんなら、罪を憎んでやる」
「…黎凪の意地悪」
「意地悪はどっちだ。私に親友憎めってのか。私はあの人が大嫌いなんだ、死んでくれて清々する!」
「れ、黎凪?!」
態度を変えない村越に苛立ったのか宮野はそう声を荒げ、がん、と座っていた石段を殴り付けた。
急に態度が変わった宮野に村越はおろおろとしている。宮野はすくっ、と立ち上がると腹立たしげに炊事場の入り口の壁を殴り付けた。
「死んだのに…漸く死んだのにまだ苦しめる!!私は!あいつが大嫌いだ!殺した奴は分かる前から恨んでなかった、私は!」
「黎凪!」
「私は!…あの人が死んで嬉しかったぐらいだ!!」
村越は宮野の言葉にびくりと肩を跳ねさせた。
「なのにお前を憎めってか?ふざけんじゃねぇ!そんなのごめんだ!」
「!ご、ごめん…」
「…ッ。……芽夷をそんなに苦しめる羽目になるなら本当に私が殺せばよかった…」
「ッ!!れ黎凪…、」
「黎凪!!」
突如聞こえた真田の怒鳴り声に宮野の肩がびくりと跳ねた。
村越と振り返った宮野はほぼ同時に真田を見た。真田はつかつかと宮野に歩み寄り、ばしん、とその頬を張った。宮野は横に揺れた顔を戻そうとはしなかった。
村越は慌てて2人に近寄る。
「ゆ、幸村さん?!」
「黎凪。今何と申した」
「…殺せばよかったって言った」
「…お前が母上殿を嫌うておるのは分かっておる。だがお前の母である事に変わりはない!!斯様な事、二度と申すな!!」
「幸村さん何でそんな怒って…」
怒鳴った真田と宮野の間に村越は割り込み、宮野を背にかばった。真田は宮野から村越に視線を移した。
「母を殺そうなど…何故貴殿は何も思われぬ」
「何故…って……」
「…だって……」
ぽつり、と呟いた宮野の言葉が震えていた。村越ははっ、と宮野を振り返った。宮野は肩を震わせ――静かに泣いていた。
「………黎凪」
「…どうせ……父さんの言葉をきっかけに……犯人として疑われたんだ………芽夷を苦しめるくらいなら、…私は寧ろ、その罪を被りたかった……!」
宮野の目から、ぼろぼろと涙がこぼれた。真田は何も言わず、ただ強く宮野を抱き寄せる。
「…お前の気持ちは俺には分からぬ。だが…己を産みだした者を、己で殺そうなどするな」
「あの人を母さんだなんて思わない…ッ!」
「それでも。お前を産んだのはその者なのだ。…忘れてしまえ。その者を憎むな。その者を憎んでも、お前が苦しいだけだ」
真田はそう言って抱き締めた宮野の背をぽんぽんと規則正しく、そして優しく叩いた。
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