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もうお前を離さない309

「?私に何か御用ですか?」
「!い、いやっ、あのっ」
「???」
村越は吃り続ける小早川に首をかしげた。小早川の顔はみるみる赤くなっていく。村越はますます分からなくなり眉間を寄せた。
「何をおっしゃりたいんです?」
「ひ、ひぃっ!怒らないでぇっ!!」
「はぁ…?」
「や、やっぱり僕には無理だよぉぉぉぉっ!」
小早川は結局何も言わないまま走って逃げてしまった。1人残された村越はしばらくぽかんと小早川が逃げた方角を見ていたが、はっと我に返ると再び首をかしげた。
「…何がしたかったんだ?あの人…」
村越は頭を捻りながらも、直に昼になることを思い出し、小早川の事は忘れて炊事場に向かった。


「失礼しまする」
ちょうどその時、真田はそう言って部屋に入った。部屋の中には大谷の姿があった。
「何用にござろうか?」
「来やったか。主に文よ」
大谷はそう言うなり文書を真田に投げ渡した。真田はそれを受け取り、首をかしげた。宛先は「赤紐の寅吉」となっていたからだ。
「…?某に…?」
「裏を見よ」
そう言われて真田は文書を裏返した。差出人の所に書かれていたのは、「うっつー」。
真田ははっとして大谷を見た後、文書を開いた。
「……この手…確かに、宇都宮殿の物にござる」
「やはりな」
「…宇都宮殿が申すには…毛利が最上、南部領を攻めた後、動かぬ、と」
「何?」
大谷は真田の言葉に眉間を寄せた。真田は文を読み続ける。
「毛利殿が南部領に攻め入り、鎮圧したのは、宇都宮殿の忍の報告によると四日前とのこと」
「四日も前に…か?」
「宇都宮殿はそのように申されておりまする…」
「…毛利め、何を考えておりやる……」
大谷は忌々しげにそう呟いた。真田は文書を畳み、大谷を見る。大谷は真田のその視線に気が付くと、ヒッヒと肩を揺らして笑った。
「…大谷殿…」
「はっきり申せ」
「……某は、貴殿が間違った事をしたとは思っており申さぬ」
真田の言葉に大谷は意外そうに真田を見た。真田は大谷からふい、と部屋から臨む庭へと視線をずらす。
「ただ。…三成殿には本当の事を申すべきだったと思い申した。敵を騙すにはまず味方からとは申せど、三成殿は裏切られ…騙されて主君を失った御仁にござる。貴殿が真に三成殿の事を思うのならば、事実を包み隠さず伝えるべきだった、と。例えその事実が三成殿を傷つけようと、少なくとも、…今三成殿が受けた傷よりは浅かったと思うのでござる」
「……………」
「…いまさらだと言われれば今更にはござるが…ただ、そう思った事をお伝えしたく」
「……ヒヒ。そうよなァ。何故三成を我を許したのか…」
「!…、………」
「…やはりあれのせいか?」
「あれ…?……もしや…村越殿の事にござるか?」
「かつての三成なら、例え味方や女子が庇おうとも刀を止めなかったであろ」
大谷はそう言うとふぅ、と息を吐き、ふよふよと数珠を弄んだ。
真田は手を顎に当て、むぅ、と呟いた。
「…村越殿の存在が、三成殿の心中に余裕を生んだ、と?」
「恐らくそうであろうなァ。三成自身は分かっておらぬだろうがな」
「…そういえば、黎凪が、某達が到着した日に、三成殿がかっとなり、村越殿を殺そうとしたと」
「斯様な事があったのか?」
「口喧嘩をしていたら頭を冷やすと言って出ていかれたそうにござる」
大谷は真田の言葉を聞くと肩を揺らして笑った。
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