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もうお前を離さない357

「……あのー…なんか怒ってる?幸村…」
ずんずんと進む真田に、宮野は恐る恐るそう尋ねた。真田はそれには答えず、ただ前へと進んだ。
 武田軍の陣営に着くと、真田は陣幕の中に入り、そこにいた他の兵達を人払いさせた。
「幸村ー?」
未だきょとんと首を傾げている宮野に、真田は僅かに苛立ち、目を細めると強引に宮野を抱き寄せ唇を重ねた。
「…ッ?!」
驚愕し慌てて離れようとする宮野に構わず、真田は口付けを深くした。
「ん…っ」
息苦しさからか、宮野の顔が僅かに歪む。真田はしばらくそのまま唇を重ねた後、静かに離した。
「…ッ……は…。急にどうしたのていったー?!」
真田はそのまま頭を下げると宮野の首筋に噛み付いた。
「噛むなら甘噛みにしてよ…どうしたの?」
「………ッ。俺に隠し事をするな!」
態度の変わらない宮野に、思わず真田はそう怒鳴っていた。宮野は驚いたように真田を見る。
「お前が斯様な態度を取るときはいつも何か隠しておる!俺に隠すな!そんなに俺は頼りないのか?!」
「…ご……ごめん…。意図的に隠してた訳じゃ、ないんだけど…」
激昂する真田に宮野はしどろもどろになりながらも謝った。
ふい、と気まずげに顔を逸らした真田をじ、と見た後、宮野は不意に真田に抱きついた。
「!黎凪、」
「少しだけ…少しだけでいいから」
「…!… 少しといわず…いろ」
真田は僅かに驚いた後、ぎゅう、と宮野を抱き締めた。宮野はぐり、と頭を真田の肩に押し付けた。
「…話してくれ」
「………割り切ってた」
「?」
「割り切ってた…つもりだったのに」
宮野はぽつり、とそう言った。その言葉に、真田はそれが母親の事だと察し、抱き締める腕に僅かに力を込めた。
「………割り切ってたつもりだった。なのに、落ち込んでる自分がいる。…それが腹立たしくて悔しい」
「…お前は何も悪くないであろう」
「……多分ね。諦めたはずなのに、諦めきれてなかったんだと思う」
「諦める…?」
「…心のどこかで…まだあの人に愛されたいと願ってる…」
「…ッ」

「認めてほしかった。……、愛してほしかった」

「皆まで言うな」
真田はそう言うと宮野の頭に手を添え、己の肩に押しつけた。宮野はふふ、と小さく笑う。
「愛してくれなんてしない。…分かってるのに、どうして諦められないんだろ?」
「……それは…どうやっても欲しいからではないのか?」
「……成る程。…あの人が死んだ時ね。私…確かに嬉しかったんだ。漸く解放された、って……」
「……あぁ」
真田は相槌を打つと、宮野の頭の上に己の頭を乗せた。宮野はきゅ、と掴んだ真田の上着を僅かに引く。
「…もう理不尽に怒られることも、否定されることもないんだ、って…。……でもきっと私は、悲しかったんだと思う。あの人が死んで」
「……………」
「もう…努力する理由が無くなってしまったから。私はずっと、あの人に『よくやった、頑張ったね』って言って欲しかった。その為に勉強も家事も頑張ってきた、のに…」
「……あぁ」
「少ししたら、また努力する気になれた。自分が自分を誇れるような自分になろう、って思って。……その時に、あの人の事は忘れたはずだった。でも、忘れられてなかったんだ。……今日それが分かった」
「…黎凪」
真田はさすさすと宮野の頭を撫でた。
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