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もうお前を離さない352

耳障りな音を立てて兜割りと輪刀が交差する。
勝負が拮抗していくにつれ、毛利の表情に苛立ちが交じり始める。
「せぃやっ!」
宮野は両方の兜割りの隙間で輪刀を受けると、上方に向かって地面を蹴り、全体重をかけて輪刀を下へ押し出した。
「ッ!」
その勢いで体が飛んだ宮野は空中で回転して上体を起こすと、思い切り毛利の兜を蹴り飛ばした。
「?!」
その衝撃で毛利の上体が倒れる。
それよりも早く着地した宮野は手をついて回転し、毛利を足払いした。
浮いた毛利の体の下から後転して抜け出すと、回り切る前に足で体を止め、今度は前転して毛利の腹部に踵を勢い良く落とした。
「ッ、!」
勢い良く毛利の体が地面に叩きつけられる。毛利が起き上がる前に宮野は起き上がり、毛利の胸を踏みつけて兜割りを振り上げた。
「チェックメイト」
「…!」
ぞわり、と宮野から殺気がまきあがった。

その時。

今までぴくりとも動かなかった毛利の兵が一斉に矢をつがえ、ためらいなく放った。
「?!うわわわわ!」
先ほどの殺気はどこへ行ったか、宮野はぎょっとして飛び上がると慌てて毛利の上から逃げた。
矢は、毛利の体をうまく避けて地面に突き刺さった。
宮野は真田の後ろに隠れる。
「何あれ怖い!躊躇なかったんだけど!!」
「な、何をしているのだお前は…」
「!…なるほどな」
「…!」
毛利は体を起こし、そして目を見開いた。
毛利の兵が、毛利を守るように周りを囲み、矢を構えていた。毛利の傍にいない兵も、周りに向けて矢を構えている。
「…、けっ。言葉の割には、随分と愛されてるみてぇだなぁ毛利よぉ」
「!!…貴様等何をしておる。勝手に動くでないわ」
長曾我部の言葉に不愉快げに顔を歪めた毛利はそう言い放った。だが、誰一人動こうとしない。
「…我ら毛利は元就様あってのもの…」
ぽつり、と1人の兵がそう口にした。その兵は矢を構えたまま、ぐ、と拳に力をこめると覚悟を決めたようにこう、言った。
「我らはいくらでも換えが効く。されど、元就様無くして毛利の生存は有り得ませぬ…!」
「な…ッ」
「我らが死は必ず安芸の安寧に繋がる…それは元就様なればこそ!例え日の本が敵に回ろうとそれに違いはない!」
別の兵は、そう言った。格好からして、分隊長なのだろう、その言葉の直後に、彼のそばの兵は殺気を顕に宮野の方を睨んだ。
「……信頼されてるじゃないですか。誰も貴方のことを、同じ駒だと思っていない。…貴方の正しさを信じてる」
宮野はその視線を受け、ふ、と笑うとそう言った。毛利は半ば呆然としながら周りの兵を見つめている。
「…よい絆だな、毛利」
「何が絆よ…我は!」
「毛利殿!…本当に今の毛利は貴方がいるから成り立ってるんですよ」
「それが何だ!」

「だから。…貴方が死んだ後、毛利を支える事ができる程の実力者はいませんよ」

「…ッ」
毛利は忌々しげに宮野を睨んだ。きり、と弓の弦が音を立てる。
「…毛利を守るためならば、馴れ合いに加わったっていいじゃないですか。全てを敵に回したら、貴方が死んだ後毛利は確実に滅びますよ」
「……それは脅しのつもりか…」
「いいえ。事実です」
「…ッ」
「…人は必ず死にます。貴方の兵士は皆、貴方を信じているんですよ。……本当に、死なせていいんですか」
毛利の顔に動揺が走った。
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